───エクスフィアって、恐ろしいものなんだね
───間違えているかもしれないと、思ってしまったボクは、
きらきらと。砕かれた輝石が光を反射する。
ミトスくんの姿が少しずつ光の粒になって散って行く。
それは、彼が選んできた道の終着点。覗き見た記憶の中で、彼が静かに呟いたことを思い出せば、これこそが彼の決めたけじめのつけ方なのだろう。
勝っても負けても、ミトスくんは望む結果を得られたのだ。ならばそれは、喜ばないといけない。わたしが好きで大好きで、愛していることが当たり前で、ずっと胸の奥に居続けた人が望んだことならば、引き留めてはいけない。
もう触れることが叶わない人になっても。それは、彼の選んだこと、なのだから。
(いかないで)
(いやだ。いかないで)
(そばにいてよ)
そんな言葉が溢れそうになって、慌てて唇を噛む。
だめ。言ってはだめ。手を伸ばしてはいけない。それはミトスくんも、他のみんなも。大好きで大切な仲間たちも困らせてしまうことだ。輝石を砕いてと言ったのはわたし。ジーニアスだって、我慢してる。だから、そんなことを言って手を伸ばしてはいけない。
彼の選んだ選択を見届けることが、わたしにできる唯一のことなんだから。彼の隣にいることを選ばなかったわたしは、これしか、できないんだから。
だから、だめ。涙は流しても、引き留めては、だめ。
「……背は抜いたんだから、言ってもいいよね」
そう、自分に言い聞かせてこぶしを握るわたしの耳に、声が聞こえてくる。
響くような声じゃなくて、彼の、優しい声が聞こえて。ゆっくりと目を開いたミトスくんと視線が合う。
初めて出会ったときみたいにまっすぐで、優しくて、強い瞳が、わたしを見つめている。
その言葉に思い出したのは、いつかの約束だ。
背を抜いた時に、内緒にしていた話を聞く。
それを今果たそうか、とその目を柔らかく細めて笑うのは、あの日に出会ったミトスくんで、この旅の中で出会ったミトスで、大好きな、人で。
「大好きだよ、ナギサ。ボクの……初恋の、人」
その柔らかな声が、わたしの耳に届いた。
「……ぁ、」
(───ひどい)
「ぁあ」
(ひどい、ひどい、ひどいよ)
「……っ、」
(その返事を、言わせてくれないくせに)
涙が落ちる。耐えられない。ぼろりと零れたそれと一緒に音が落ちなかったのは、わたしの意地だ。
一緒にいてくれるつもりなんてない彼に、言い逃げしようとする彼に、素直に同じ言葉を返すなんて、したくない。
でも、聞きたかったらそばにいてよとか、そんなことも言えない。そんなわたしに、彼もまた、穏やかにほほ笑むだけだ。
わたしがこういう反応することも、彼には全部、お見通しなのだ。ひどいな。
「…………、……………、……」
だからもう、意地だ。絶対に、彼のその最期まで、決して、見逃してなるものかと、そう思って。必死に、目を開いて、手を伸ばす。
届かないことはわかっている。もう彼の姿なんてどこにもない。世界に溶けて消えてしまった。それでも手を伸ばした。つかめないから。見送るしかできないから。だから安心して手を伸ばす。最後の最後まで、光が消えてしまうまで、全部を見届けるつもりで、手を伸ばして……その手は当然、何も掴まない。
そのことに安堵して。そのことに悲しくなって。そのことに、緊張の糸が切れて。わたしは何の言葉も返せないまま泣き崩れて。
ただ、ただ。空気に溶け込んでいった彼の光をかき集めて抱きしめた。