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光が霧散していく。
わたしの手の中に残らない彼だった光はゆっくりとあたりを漂って、世界へと溶けて消えていく。
それでも、最後まだきらめいていた光の粒の一部が、ロイドのエクスフィアに吸い込まれるように姿を消すのを見て、彼がそのエクスフィアを静かに撫でるのを、ただ見つめていた。

「……ここに……俺たちの世界にいてもよかったのに。ばかやろう」

小さく、絞り出すような声を聞き届けてから、彼が持つ双剣から二つの光が零れ出る。赤と青。美しいその光はロイドの目の前で重なり合うと、祭壇で見たあの剣が……エターナルソードの形となって現れた。
ロイドの手は、それをしっかりと握りしめる。まるで彼の手にあるのが当然のように輝きを増したエターナルソードから、オリジンの声が響いた。

───古き契約の主は消えた。新たなる契約の主よ。この剣に何を願う?

ロイドはひとつ、目を閉じて。大きく息を吸ってから、エターナルソードを高く掲げる。
そうして、力強くその願いを発した。

「二つの世界を、あるべき姿に!」

その言葉に応えるように、剣が光を放ったかと思うと、浮遊していた大いなる実りがゆっくりとまたたく。
それらが放つ光が視界を覆ったかと思うと、次の瞬間には、別の場所へと移動していた。ここはおそらく、テセアラ側にある救いの塔の入り口だ。大きく崩れて、もう台座しか残っていないけれど、間違いない。

「ここは……戻ってきたの?」

無事に世界は一つになったのだろうか。状況を確認したいと思ったけれど、それは叶わない。一歩足を踏み出そうとした瞬間、立っていられないほどの地震が襲ってきたからだ。
断続的に怒る地震は、なんとなく、以前大樹が暴走した時と似ている気がする。少なくとも、あまり良いものには思えない。
動揺している間に、急に辺りが光ったかと思うと、次々と精霊たちが姿を現した。ウンディーネ、ノーム、イフリート、シャドウ……契約したすべての精霊たちが姿を見せたことに、またひとつ混乱する。

「な、何が起きた!?」
「どうしたんだ、あんたたち!」
───願いは叶えた。しかし、楔がない。楔がなければ、大地は死滅する
「どういうことですか!」
───もともと世界は滅亡を防ぐために二つに分けられたのだ。あるべき姿に戻れば、世界を支えるマナは不足する。大地は……消滅しようとしている
「そんな御託はどうでもいい! それよりどうしたら大地を守れるんだ!」
───二つの世界を支えるため、大樹を楔とする。大地の滅びを防ぐには、それしかない
「大樹カーラーンを、目覚めさせるんですね」
「……そうか!」

かつて、世界の滅亡を防ぐために世界はふたつに分けられた。
そして、世界がひとつに戻るなら、その問題に直面するのは当然だ。
それを解決するために、かつて英雄だった彼らが最終目標にしていた大樹の発芽へと話が向かうのも、当然のこと。彼らがついぞ成し遂げられなかった大樹の発芽を以て世界は統合され、新たに再生される。
……それは、この四千年という長い時間をかけて、ようやく古代の英雄たちの物語が終着点に届くようで。これまで何度も重なったわたしたちお勇者の足跡が、再び重なったようで。そのうえで、新しい一歩を踏み出すようだったから。
デリス・カーラーンがまだ手の届くうちに、大いなる実りを目覚めさせなければと考えるのは、当然のことだった。

「ロイド、急いで! デリス・カーラーンが遠くへ行っちゃう前に、大いなる実りに、デリス・カーラーンのマナを照射しないと!」
「よし! 頼む、エターナルソード!」
───すでにデリス・カーラーンは大地の引力圏を離れようとしている。これを引き留めることは、かつてのユグドラシル……ミトスすらできなかったことだ。それでもやるのか?
「ああ」
───エクスフィアで強化していても、体がもたないだろう。それでも、本当にやるのか?
「やるったら、やるんだよ! やんなきゃどうしようもないだろーが!」

世界を統合し、真の意味で世界を再生すること。
それを成し遂げるためにここまで戦ってきたのだ。今さら立ち止まることなんてしない。やらねばならないのなら、やらなくては。
ロイドのその覚悟を、オリジンは正しく受け取ったのだろう。どこか満足そうな声が、辺りに響いた。

───……承知した