145-2

遠く、空の果てから、光が落ちてくる。
いつだったかに見た滅亡の光とは違う。あたたかくて、きらきらとした光が、エターナルソードの輝きに導かれるようにして降りてくる。
それはゆっくりと、ここから見える崩落した祭壇に浮かぶ大いなる実りへと近付き、包み込むようにまたたいて……そうして、はじかれるように霧散して消えてしまった。
まるで大いなる実りそのものが、与えられる光を拒絶するかのようなそれに息を飲むと、エターナルソードもロイドの手から姿を消してしまう。
どうして。どうして。これで、大樹は目覚めるはずなのに。どうして受け取ってくれないの。

「どうしてだ!? マナがはじき返されちまう!」
「大いなる実りが……死んでしまっているんだわ」
「……マーテルさん……!」

ながい、ながい間。大いなる実りは、この地で、マーテルさんと共にいた。彼女と同化していたそれは、どちらかが生きている間は、間違いなく生きることができた。
それが死んでしまうとしたら、どのタイミングだろう。
大樹が暴走した時も、マーテルさんが一度コレットの体で目を覚ました時も、大いなる実りそのものに何か影響が出ているようには見えなかった。
それどころか彼女のマナが再び大いなる実りへと戻った時、何事もなかったかのようにそこに佇んでいたし、マーテルさんだって、そこにいたはずだ。だからこそ、ミトスくんに声が届かないことを嘆いたのだ。
あの時はまだ、どちらも生きていたはずだ。それではなぜ。いつ。何をきっかけに、大いなる実りは、死んでしまったの。

ふわりと。
まるで自らの死を伝える為だけにそこにあったかのように。大いなる実りは、軽やかに浮かび上がる。遠く離れていく彗星と共にこの地を去ろうとするように、祭壇からそれは離れていく。
その光景は、まるでマーテルさんが背中を向けて遠ざかっていくように思えて、わたしは思わず崩れかけた祭壇へと駆け出した。

「待って、行かないで!」

駆け出したところで、何ができるわけじゃない。そもそも途中で階段が崩落してしまっているから、救いの塔に残された祭壇に近付くこともできない。
わたしの手は、絶対に届かない。
それでも、わたしは手を伸ばすのをやめられなかった。瓦礫を乗り越えようとすることを止められなかった。マーテルさんに呼びかけているのか、大いなる実りを追いかけているのか、もうわからない。
ただ、二人が願った未来に。わたしたちが選んだ未来に。
大樹は、絶対に必要なんだ。

「行かないで、お願い!」

うんと手を伸ばして、必死にそう叫ぶ。
その声が届いたのかどうかは、わからない。ただ少しだけ、大いなる実りの上昇が止まった。
その蕾がほころぶことはないけれど、少しだけ……少しの間だけ。それはそこに留まると、わたしを振り返るように、ゆっくりと回転して、再び上昇を始める。

「行かないでくれ! 頼むから、目覚めてくれ!」

わたしと同じ言葉を叫ぶ声が聞こえる。別れのあいさつのように立ち止まった大いなる実りに、それではだめなのだと叫ぶ声が響くと同時に、何かがわたしの上を飛び去って行ったのが影でわかった。
何か、大きな鳥のような。慌てて空を見ると、大きな羽を広げて飛び立っていく姿が見えた。

「ロイド……!?」

その背中に、とっても大きな羽が生えているけれど。あれは、ロイドだ。間違いない。
少し目を離したすきにどうなっているのやら。光り輝く翼を羽ばたかせて、大いなる実りを追いかけていく彼の後を、同じように天使の翼を広げたコレットも追って飛んでいく。
その姿に、何故だか、すごく。泣きたくなって。わたしは天に祈るように指を組むと、この旅の中でずっとずっと祈ってきた大切な人に。きっと彼らに力を貸してくれるだろう人達に、願った。

「……ミトスくん。マーテルさん。……お願い」

大樹を、目覚めさせて。