少しの空白の後に、空を覆うほどにまばゆい光が視界を満たした。
あの光はなんなのだろう。まぶしくて、あたたかな光は、大いなる実りに照射しようとしたマナと同じようにも感じる。
空を覆った光が、ゆっくりと薄らいで。そうして、訪れたのは静寂だ。地震は止まり、ただ静かに風が吹いている。美しい青空だけがそこにあって、わたしたちは、ただ茫然とそれを見上げるしかできないでいた。
「……今の光は……」
「大樹は、発芽したのだろうか」
瓦礫の上にうずくまっていたわたしをしいなが迎えに来てくれる。彼女の手に引かれて立ち上がってみんなの元に戻れば、みんなも、この訪れた静寂に戸惑っているようだった。
何もかもが解決したのか、それとも嵐の前の静けさなのか。判断がつかない。ロイドたちはまだ降りてこないし、この景色のどこにも大樹の姿はない。
けれど、それまでじっと、何かに耳を澄ますように目を閉じていたリフィルさんとジーニアスが震えた声で言葉を落とすのを聞いて、はっと息を飲んだ。
「……マナの流れが変わったわ」
「うん。……まだ、弱いけど……」
わたしたちには感じられない変化が、今、この世界で起きている。
それはつまり、どこかで大樹が芽吹いたということなのだろうか。
顔を見合わせるわたしたちの間に、ふと。どこからともなく、木の葉が風に吹かれてきた。
青々とした綺麗な葉だ。なんだろうと手を出して、けれどそれは、まるで幻のように手をすり抜けてしまって首をかしげる。
「これは……幻か?」
「どうして、木の葉の幻なんて……?」
「これは、大樹の精霊が見せている未来の姿でしょう」
わたしたちの問いに答えたのは精霊たちだ。
これまで一緒に見守っていた彼らは、とても愛おしそうにその葉に手を透かして、優しくそう語り掛けてくる。
「大樹の、精霊……?」
「大樹にも寄り添う精霊がいるのです」
「つっても、今はまだ大樹と同じで、ちいさな苗木だろうがな」
「小さな苗木……未来の姿……ということは……」
「……発芽、したんですね……!」
わあっと零れた喜びの言葉に応えるように、遥か遠くにそれは姿を見せる。
あれがあるのは、いったいどこだろう。具体的な場所はわからないけれど、それは……天を覆うほどの大樹の姿は、この場所からもよく見えた。
青々と茂る、力強い大樹。
大地を抱きしめるようにいっぱい腕を広げて、空から落ちる光を全身で受け止める大樹の姿が、よく見えた。
「あれが……マナを生む、大樹……」
「とても大きくて……綺麗……」
未来の姿、と精霊たちは言う。だから実際にはまだ、あんなに大きくて立派な樹ではないのだろう。今だけ。大樹を発芽させたわたしたちに見せてくれている、世界の楔の姿だ。
かつて二人と一緒に見た大樹とは違う姿。けれど、それは確かに……わたしたちの希望そのもの、だった。
「世界は、ここから変わっていくのね」
「ああ。あの大樹が存在するにふさわしい世界に、変わっていくのだろう。……いいや、変えていくのだ」
「こりゃ、まだまだ休んでられねえなあ」
今、確かに大きな節目は迎えたけれど。世界はまだ、始まったばかりだ。やらなければならないことは山積みだし、世界もわたしたちも変わっていく途中で、道はまだまだ続いている。エンドロールなんて訪れるわけがない。
……それでも。この世界は間違いなく、今、生まれ変わった。ひとつの物語を終えて、新しい物語を響かせようとしている。
かつて願ったように。
約束した夢の通りに。
みんなが当たり前に笑い合えるような世界を目指して。
「……わたしは」
ミトスくん。マーテルさん。
彼らに語り掛けるように、わたしはそっと指を組む。もういない二人に声が届くように、祈るように。
ぽろりと溢れる涙を抱きしめるように、静かに目を閉じる。
……わたし、二人に出会えてよかった。二人がいるこの世界に来て、よかった。
本当はこの景色を君たちと一緒に見たかったけれど、でも、隣にいるのがジーニアスにリフィルさん、しいなにゼロスくんに、プレセアちゃんやリーガルさんで、本当によかったって思う。ロイドとコレットが大樹を発芽させるのを見守ることができてよかったって、心から思う。
二人と別れてしまったことは悲しかったけれど、それ以上に、大切だと思う出会いもたくさんあったから。悲しいことも楽しいこともたくさんあるこの世界で、わたしはたくさんの大切なものに出会えたから。この旅で、わたし、なりたい自分に少しだけでも変わることができた気もするから。何も、何一つ、無駄なことなんてなかったから。
だから、だから、本当によかった。この世界に来て、よかった。この世界に来て出会えたのはあなたたちで、みんなで、本当によかった。
だからそんな世界が。この世界が、わたしは。
「……この世界が、大好きだよ……」
この世界に来て、よかったって。
この世界に来て、出会えて、旅をしたのがみんなで、本当によかったって。
そう、心から思えるくらい。
君たちが愛したこの世界が、大好きだよ。