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「いいですか。救助と言えば聞こえはいいですし、勇敢ですが、基本的に上から落ちてきたものを受け取るのは危険なんです。無茶なんですよ」
「は、はい」
「今回は運よくどちらも助かりましたが、本当に危ないことなんですからね」
「はい、すみません。……あの、そういえば、あの時落ちてきたのって……」

はあ、と大きくため息を吐くお医者さんに、すみません、と思いつつ問いかける。
いっぱい頑張った結果、リハビリも順調だし体調も問題なさそうだから近いうちに退院を、という説明が、いつしかお説教のようなものになっていくことに困って、話題を変えるつもりだったのだけど。
見事に失敗したというか、懲りていないなと思われてしまったというか。呆れた顔をされてしまって、後ろで看護師さんも苦笑しているのが見えた。

違います、別に繰り返すつもりはないです。たまたま今回飛び出しちゃったからこそ、何が落ちてきたのか気になると言うか。今後繰り返さないために正体を知りたいだけなんです。
そう言葉を続けてなんとか答えを得ようとすれば、先生はそっと肩をすくめて、言いふらしたりはしないでくださいね、と口を開いた。

「人ですよ、子供です。そんなに高くない場所だったとはいえ、落下してきた人間を受け止めるなんて、本当に無茶なことなんですからね」

なるほど。人命救助したと調子に乗られても困るし、個人情報的な意味で詳しいことは言えないから話しづらいということか。
たしかに、事故か事件かわからないけれど、子供が落ちてきた、というのはそれだけで大事件だ。そういえばニュースも特に流れていなかったし、関連していいネタになりそうなわたしにも特に何もなかったあたり、周りの人たちが頑張ってくれたのだろう。
いくら意識不明の重体だったからって、リハビリが始まってからも個人部屋のままでいさせてもらえるのありがたいな〜でもお金とかその他気になるな〜なんてのんきに思っていたけれど、たぶん、そういう事情がいろいろあったのかもしれない。
改めてありがとうございます、と頭を下げれば、先生は少し困った顔でわたしを見つめた。

「……あなたにお礼がしたいと言っていました。あなたより先に目を覚ましていて、容体も安定しています。病室に来る許可を出しても大丈夫ですか?」
「あ、はい。もちろん、大丈夫ですよ」

別にいちいち聞かなくても、と思ったけれど、どうやらお礼を言いたいだけでも、わたしが嫌がる可能性があるから勝手にお医者さんが許可を出すわけにはいかなかったようだ。
いろいろと大変な世の中だなあ、と懐かしくなっていると、先生はそれまでの困った顔を引っ込めて、穏やかにほほ笑んだ。

「あの子が来たら、その時はどうか、優しく出迎えてあげてください」

その言葉にどことなく胸が騒いだのは、たぶん、何かの予感があったからだ。
たとえば、あの神託の光を見た時に似ているかもしれない。これから何かが始まるような、そんな予感。
それは、わたしが生まれたわたしの世界での再出発が、その子に会うことで始まるのかもな、なんて。そう納得して、わたしはもちろん、とうなずき返した。