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あの後、無事に解毒薬を渡したことで起き上がることもできるようになった国王陛下に許可をもらって、わたしたちは王室の書庫にこもっていた。
時代も使用文字もバラバラで、膨大な資料を前にして一瞬だけ怯んだけれど、こんなに資料があるならきっと欲しい情報が見つかるに違いないと、そう奮起して。みんなで手分けして目的の資料を探す。
古代カーラーン大戦の資料は、まあまあ見つかる。でも欲しい情報はない。
薬学や医学について、ちょっと一般大衆には見せられないだろうな、という内容の本もあった。でも欲しい情報はない。
考古学。言語学。教会の成り立ち、勇者の物語、薬学史、エクスフィア研究史、そのほかたくさんの資料、資料、資料……けれど、欲しい情報は、見つからない。

「……だめだあ!」

思わずそう声を出してしまったロイドを、けれど誰も責めることができない。
勉強は得意じゃないと言っていた彼がこんなに長時間頑張って資料と向き合ったのだ。それでもまだ、欲しい情報を見つけられないことに、深く息を吐いて座り込んでしまったって仕方がない。

「これだけ探しても見つからないなんて……」
「他に資料はないのかい?」

そう、わたしたちですら呟いてしまうほどだ。積み上げた読破済の資料の山を見上げて、こんなに探しているのに、どうして、と泣きたくなる。
それでも、彼の目が、まだ諦めていないことはわかるから。座り込みながらも、絶対にあきらめないと本棚に視線が向かっていることはわかるから。
わたしたちも諦めきれなくて、少し休憩したら次はこの未読だけどとりあえずそれらしい本だからと積み上げていた本の山を見よう、と次のことを考える。

「……諦めないぞ。まだ何か、手があるはずだ」
「……ロイド。ありがとう。……でも、もういいよ」

それでも、自分のためにみんながここまでする、ということに、申し訳なくてたまらなくなってきたのだろう。コレットはもう大丈夫だから、覚悟してるから、と首を振ってロイドに近付こうとして……そして、転んだ。
まあ予想通りではある。いっぱい資料が散乱している状態だし、彼女なら本に躓いてもおかしくない。でも、まさか転んだ先にあった、未読の本の山に飛び込んできて崩すとは思わなかった。一番近くにいたわたしの上にバサバサと本が落ちてきて、思わず呻く。

「い、いたた……」
「ご、ごめんね、大丈夫?」

眉尻を下げるコレットの頭を撫でて平気だと伝えていると、崩れた本の山のうちの一冊が、リフィルさんの近くまで滑っていったらしい。その本を持ち上げて、彼女がはっと息を飲むのが聞こえてきた。

「……これは……天使言語……いえ、エルフの古代文字ね。……まって、これかもしれないわ!」

大慌てで読み込みだしたリフィルさんを見て、わたしたちはきょとりと目を合わせる。
それから、間違いないわ、と叫んだ彼女の声を聞いて、見守っていたみんなが苦笑した。

「まさかこんな形で手がかりがみつかるとは」
「コレットのドジは、本当に祝福されてるみたいだね」

神に愛されしドジ。うーん、素晴らしいような、素晴らしくないような。
なんとも言えない気持ちで苦笑していれば、リフィルさんは目的の記述を見つけ出したらしい。あったわ、と言って、それからじっくりとその文字を指でなぞりながら音読し出した。

「クルシスの輝石の浸食を防ぐため、マナのかけらとジルコンをユニコーンの術で調合し、マナリーフで結ぶルーンクレストを作成した。中枢にマナリーフの繊維を利用することでバグによるクラッキングから……ああ、ここから先は原理になるのね」

なるほど、と納得する声に、では必要な材料と準備は今出てきた言葉たちですべてか、とうなずく。
ええと、輝石の浸食を防ぐために、薬というよりは何かアイテムを作成するということだ。

「ええっと、つまり、マナのかけらとジルコンとユニコーンの角があればいいのかな?」
「あとマナリーフね。これでルーンクレストとかいうものを作って要の紋に取り付けることで、輝石の働きを抑えることができると書いてあるわ」
「そんなもん、誰が作るんだ?」
「そりゃ、ドワーフだろうよ」
「コレットさんの体はどうなってしまっているんですか?」
「永続天使性無機結晶症……と書いてあるわ。アルテスタの診断通りね。全身がクルシスの輝石になってしまう病気なんだわ」
「よし、希望が見えてきたぜ!」
「でもあまり時間はなくてよ。永続天使性能無機結晶症状は最終段階の皮膚結晶化の発症からおよそ数か月程度で全身が輝石になるようなの。完全に皮膚が輝石化すると、次は内臓器官が輝石化して、最終的には……」
「……死ぬんですね」

ぎゅ、と手を握るコレットの手は震えている。
それでも、ここで言葉を濁す方が不誠実だと判断したのだろう。リフィルさんはその通りだとうなずいた。

「だったら急ごうぜ。可愛い子は、より長生きしなくちゃなあ」

集める材料が分かれば、あとはそれがどこにあるのか調べるだけだ。
一度書き出して、地図を広げて、それぞれに心当たりがないかそれぞれ記憶を探った。