アルタミラ本社に到着してジョルジュさんに事情を話した後、わたしたちは資料室に訪れていた。
ここ数日でいろんな資料室に訪れているなあと少しだけ思いつつ。これまでと違って企業資料だからか、目的がはっきりとしていたからか。あっさりと見つかった目的の資料に安心しながら、わたしたちは資料を開いた。
「ジルコンの最後の出荷は……」
その記述にたどり着く前に、ふっと風がわたしたちの間を通り抜ける。
……ここは資料室で、屋内で、窓も開けていないのに。いったい何がと思っている間に、ロイドの手から資料がなくなっていることに気付いて、わたしたちは目を白黒させた。
「なんだこりゃ」
どこか呆れたような、つまらなさそうな声が聞こえて、全員の視線がそこへ向かう。
そこに立っているのはくちなわさんだ。そして、彼の手に先ほど開こうとした資料があることに気付いて、今の風は彼が通り抜けたものだったのかと理解した。
「くちなわ!」
「教皇は死んだ。ヴァーリも死んだ。それなのにまだ、俺たちを付け狙うのか!」
「……やっぱり、あたしのことを恨んでいるのかい?」
しいなの問いに、彼がぎゅろりとこちらを見る。
その目にはわたしまで身をすくめてしまうほどの憎悪が宿っていた。
「当たり前だ! お前のために俺の両親も里の仲間も死んだ。頭領は眠りについたまま、十年以上、目を覚まさない!」
「ご……めん」
「……あやまってすむものか! 俺は……お前を許さない!」
「くちなわ! あたしが憎いなら……」
「しいな!」
「一人だけ犠牲になるって言うなら、許さねえぞ」
いつだったかの時と同じような言葉を口にするしいなに、思わず彼女の腕をつかむ。
ロイドと共にしいなを見つめれば、彼女は落ち着いた様子で首を振った。
「違うよ。あたしが憎いなら、里のおきてにしたがって、あたしと一騎打ちをしよう」
そう、力強く宣言した彼女は、以前のように弱った様子も、戸惑う様子もない。この決闘を必ず受けてくれるだろう、と自信をもったようにくちなわさんを見る彼女は、ヴォルトの雷を乗り越えて立ち上がった時と同じような強い光を目に宿していた。
きっと、彼女のこの様子も、言葉も、彼にとっては想像していなかったことなのだろう。すう、と目を細めた彼が、おもしろいとばかりに口角を上げるのがマスクの上からでもわかった。
「お前が一人で俺に勝てるとでも思っているのか」
「どうするんだい? 受けるのかい?」
「……よかろう。今ここでやるのか?」
「おきてに従って評決の島で戦おう。それでいいかい、二人とも」
止めても無駄だなとロイドと共にうなずけば、これで決闘の約束にお互い納得できたのだろう。
評決の島で待っているぞ、と背中を向けたくちなわさんに、しいなは待ってくれと声をかけた。
「待っとくれ。その資料は返しとくれよ」
「これは決闘の約束のあかしだ」
「それがないと、コレットが死ぬかもしれないんだ! 決闘のあかしなら、これを渡すから」
す、と差し出したそれは、手の中にすっぽりと納まってしまっているせいでよく見えない。けれど、確かにそれは、彼女にとってとても価値のあるものだと、一目見るだけでわかったのだろう。
わずかに目を見開いたくちなわさんの手の上で、ちりん、と音がした。
「それは?」
「コリンの……形見だ」
「……よかろう」
……ああ、彼女が今、決闘の約束のあかしだと差し出したのは、コリンちゃんの形見である鈴なのか。
それなら、彼女は間違いなく、それを受け取りに決闘の地へ行く。彼女にとってコリンちゃんがどれだけ大事な存在だったのか、しいなと少しでも共に過ごしたのなら、絶対にわかるから。
「もしもお前が来なければ、この鈴は握りつぶしてやるからな」
資料と交換した鈴を手の中で鳴らしてから、くちなわさんは立ち去る。
その横で、コレットが申し訳なさそうに目を伏せた。
「しいな……大事なものだったのに……ごめんね」
「いいんだよ。あたしがあいつに……勝てばいいんだ」
しいなはそう言って、ほら、と資料を再びロイドに渡す。
彼女はただ、強く。そこに立っていた。
「もう……逃げないよ」