ジルコンの最後の出荷は、サイバックの王立研究院であるらしい。
それならば直接分けてもらいに行けばいいだろう、と研究院へと移動すると、中に入ってそうそう、わたしたちを見て、とある研究員が怯え切った様子でわあっと叫んだ。
「み……神子さま! お許しください!」
「なんだあ?」
がくがくと体を震わせながら膝をついた研究員に、さすがのゼロスくんも困惑する。
許すも何も説明してくれなければわからない、と彼が言えば、研究員はなおも怯えた様子で告白した。
「身の丈三メートルという死の天使が降臨し、神子さまに逆らう者を頭から食い殺したと聞きました!」
「……身の丈三メートル?」
「頭から食い殺した……ねえ……」
「そんな怖い天使様もいるんだね」
みんなの視線が、そんなのんきなことを言うコレットに集まる。
君のことだよ、とは、ちょっと言えなかった。
「ま、まさかそちらのクルシスの輝石のお嬢さんも、人間を頭から食い殺すのですかっ!?」
「馬鹿言うんじゃないよ」
「わ、私は神子さまを信じています。本当です!」
もうほとんど泣きながらそう叫ぶ彼に、さすがのゼロスくんも可愛そうに思えてきたのだろう。
そうかそうか、となだめてやるように背中を叩いてやったあと、それじゃあ、と本題に移った。
「よしよしよし。ここにレザレノ・カンパニーから買い付けたジルコンが残っていないか?」
「ジルコンですか? ございます!」
「わけてくれね〜か?」
「もちろんです!」
今取って来ます、と文字通りすっ飛んで行った研究員の背中を見送ってから、みんながこれまで堪えていた苦笑いを零す。
いや、まあ、騎士団もそうだったけれど。ものすごい効果だ。天使スピリチュア、よほど怖い話として伝わっているんだろうな。
「……効果覿面だね」
「だな」
「ゼロスの機転のおかげだな」
「なんのなんの」
「ゼロスって、性格は軽いけど、やっぱりすげー奴だよな!」
きらきらと目を輝かせてそう言ったロイドを見て、ゼロスくんはげんなりとした顔でため息を吐く。
調子に乗ってこないどころか、逆に落ち込んだように見える態度に、ロイドはどうしたんだと首を傾げた。
「……はあ……」
「おい、なんだよ、褒めてるのに」
「いや褒めてくれるのはうれしいんだけどよ、そこのかわい〜顔したナギサちゃんの、ほらわたしの言ったとおりでしょ〜って表情がちょっと複雑なわけ」
「ほ〜らわたしの言った通りでしょ〜」
わざと隣でその通りの言葉を言えば、ゼロスくんがもお〜っと天を仰ぐ。からかっているのはお見通しらしい。
ロイドは絶対にゼロスくんのこと褒めてくれるよ、というわたしたちのやり取りを知らないロイドはやっぱり頭上に疑問符を浮かべてばかりだったけれど、別に、細かく説明する理由もないだろう。……というか、しないであげた方が、ゼロスくんのためにもいいかもしれない。
よくわからないけれど、彼はわたしたちに、特にロイドに心を開いて、みんなのことが大好きって思われるの、恥ずかしいらしいし。結構そういうところ子供だよね、と思わず笑ってしまった。
「どういうことだ?」
「ゼロスくんがロイドのこと大好きって話」
「あーはいはいもうそれでいーよ。俺さまの愛を受け取ってくれよ、ハニー!」
「ええ……」
「なんでそこで引くんだよ! 受け取れ!」