98-3

ジーニアスを連れ出したミトスの話はこうだ。
リフィルさんはオゼット風邪という少し厄介な病気になったのだと思う。
フウジ山岳の頂上に咲いてるファンダリアの花の蜜がその病には効くから、二人で採りに行こう。
二人でというのは、もちろんジーニアスとミトスのことだ。フウジ山岳にいる魔物はそんなに強くないけれど、魔術を使う二人だけで行くのは、やっぱり心配だ。詠唱には時間がかかるものだし、その間に無防備になってしまうわけだし。このまま放っておいてもいいけれど、もし怪我をしたら、リフィルさんも悲しむだろう。
……ということで。こっそりと二人の後をつけていくことになったのが、現在の状況である。

「オゼット風邪、かあ」
「知ってるのか?」
「知るわけないでしょ。わたし異世界人。古代人。シルヴァラント在住」
「それもそうだな」

二人より先にフウジ山岳についてしまったので、物陰に隠れながら一緒に来たロイドとため息を吐く。
二人の方が先に出たはずなのに、どうしてわたしたちが先についてしまったのだろう。まさか移動の途中で何かあったのでは、と心配になる気持ちを抑えながら会話をつづけた。

「でも、ファンダリアの花は知ってるよ。確かに昔、薬になるって教わったことがある」
「なるほどな。でも二人だけで行くなんて、無茶なこと考えやがって……」
「ジーニアスは強いけど、どうしても詠唱って時間かかるもんねえ」

と、再びため息を吐いたところで、ジーニアスとミトスが歩いてくるのが見えて、慌てて口をつぐんだ。
たどり着いてよかった、と安心したのもつかの間。やっぱり出てきた魔物を相手に、詠唱に時間がかかったり慌てて魔法を飛ばす方向を間違えるジーニアスを見て、ああ、とわたしたちは頭を抱える。
……ジーニアスは、いつも頼りになる魔術師で、扱う術もとっても強いのだけれど。こういう時に、少し動転してしまうところが、まだまだ十二歳らしい部分だった。
わたしたちは二人に見つからないように、ちょこちょこ手助けをすることでジーニアスが一人で魔物を倒して進んでいる、という状況を作りながら、山頂へと向かう。ちょっとスニーキングミッションみたいで楽しい、と思ったことは内緒だ。

そうして無事にたどり着いた山頂で、目的であったファンダリアの花を見つけて喜ぶ二人を見て、わたしとロイドはこっそりとこぶしを小突きあわせた。

「ねえ、ジーニアス。ジーニアスはボクとロイド、どっちの方が好き?」

さて後は戻るだけだ、と思ったところで、ふとミトスがジーニアスにそう問いかけるのが聞こえて、わたしたちは首を傾げる。
それはジーニアスも同じだ。ミトスの質問の意図がわからなくて、きょとんと目をしばたたかせる。

「……なんだ? 急に」
「ええ? どうしたの、急に。どっちのことも同じくらい好きだよ」
「ボクとロイドが……喧嘩したら、どっちの味方につく?」
「え……うーん……喧嘩の内容にもよるけど。ミトスはきっとロイドみたいな馬鹿なことで喧嘩しないだろうから、ミトスの味方をするかな」

けろっと答えたジーニアスに、ロイドがかくんとうなだれた。

「どーゆー意味だ……」
「理由によってはちゃんとロイドの味方するって意味だから……」

よしよし、と背中を軽くさするロイドとは対照的に、ミトスの声が嬉しそうに弾むのが聞こえる。
よくある、小さい子供のぼくと誰々ちゃんのどっちが好き、という可愛らしくもちょっと面倒な質問は、その答えに意味ってあんまりなかったりもするけれど。今、この場で自分を選んでもらえた、ということが、彼にとってはとても嬉しいことだったのだろう。
本当に? と問う彼に、本当だよとすぐに答えるジーニアスに、感極まったように赤らんだ頬ではにかむのがここからでもよく見えた。

「よかった。ジーニアスとロイドって仲がいいから……ちょっとうらやましくって」
「ミトスだってロイドの友達じゃない」
「う……うん。そうだけど。ごめんね。変なこといって。ボク……自分とこんなに歳が近いハーフエルフの友達って初めてだからうれしくって」
「ううん。ボクも同じ。うれしい」

ジーニアスとミトスは年の近いハーフエルフ自体お互いが初めてだと言っていたし、それで、ちょっと独占したいと思ってしまうくらい気持ちを傾けているのだろう。
そんなところも年相応で可愛らしいなあ、なんてこっそりと笑ってしまうと、人間のお友達代表のロイドが、ちょっとだけ拗ねたように唇と尖らせる。うんうん、こっちもこっちで年相応だ。
……ミトスくんも、同年代の友達がいなくて、マーテルさんが心配したこともあったっけな。もし、彼もここにいたら。ミトスくんも、彼らと友達になることができたら。ああして喜ぶミトスのように、頬を染めて楽しそうに笑っていたのだろうか。

「ジーニアスがずっと……ボクと一緒にいてくれたらいいのに」
「一緒にいればいいじゃない」
「……本気にしてもいいの?」
「いいよ。友達でしょ」
「じゃあ、本気にしたよ!」

そう言って、本当に心から嬉しそうに笑って。
ジーニアスの手を握るミトスを、わたしはなんだか、微笑ましい気持ちで見守っていた。