リフィルさんの熱も下がって、食事も普通にとれるようになったけれど、大事を取って一晩ここで休んでいくことにした。
ファンダリアの花はもともと高地だけに咲いていたわけじゃないとか、ちょっとした歴史のお勉強の話もしつつ、美味しいご飯と一緒に穏やかな時間を過ごしていたのだけれど……途中、お姉さんの話になって出て行ってしまってから、なかなか戻ってこないミトスのことが心配で、わたしは今、アルテスタさんの家の前に立って、うーんと悩んでいた。
アルテスタさんたちの話を聞くに、ミトスはこの辺りを散歩していることも多いからそんなに心配はいらないと言っていたけれど。もう月がすっかり昇ってしまったし、今日は山岳まで行って疲れているだろうし、どうしても心配だ。
同じように外に遊びに行ったゼロスくんは、さすがに夜の歩き方に心得があるだろうから心配ないけど。ミトスはまだまだ子供だし、そういう遊び方に慣れていないだろうし。……でも心配しすぎかな。ジーニアスすら心配性すぎるよと言っていたし。
「ナギサ?」
どれくらいの距離感で人の心配ってすればいいんだろう、となんだか深いことまで考えそうになったところでミトスが戻ってくるのが見えた。
ああ、よかった。何事もなさそうだ。
「あ、ミトス。おかえり」
「ただいま。……あ、もしかして、心配かけちゃったかな」
「まあね。この辺りはそんなに危ないこともないってわかってるけど……夜遅くに小さい子が歩いていると、やっぱり心配だし」
「そんなに小さい子じゃないよ」
「一回りも違ったら小さい子だよ」
むう、と頬を膨らませるミトスは不服そうだけれど、残念ながら一回り近く年上のわたしからしてみればやっぱり可愛いものなのである。
ぽんぽんと頭を撫でてから、ふと、あれ、と首を傾げた。おなじようにどうしたの、と問いかけてくるミトスの手はずっと彼のわき腹を撫でていて、うーん、ととある考えがよぎる。
「ごめんね、ちょっと失礼」
「え? ……うっ!?」
違ったらただのセクハラだな、と思いながらもわき腹に触れると、ミトスが表情が歪んだ。くすぐったいとか、嫌悪とかではなく、痛みに、だ。
彼はすぐにわたしから離れたけれど、隠せないのはわかっているのだろう。気まずそうに顔をそらしてわき腹を抑える彼を、わたしはじとりとした目で見た。
「やっぱり。前にタバサちゃんを庇ったって言ってた時の怪我、ちゃんと治ってないんでしょう」
「あ……あはは……」
苦笑いするミトスに、もう、肩をすくめる。
確かに、ものすごく大怪我をしたわけでもないし、普段過ごしている分には全然気にならない程度には治っているみたいだけれど。今さっきまでさすっていたくらいだし、やっぱり痛み自体は残っているのだろう。
ちゃんと休まないといけないのは彼も同じだな、と思って。我慢強いところはミトスくんにそっくりだな、と笑って。わたしはそっと手を伸ばした。
「ほら、帰ろう」
彼の手を握って、家の中へ入ろうと踵を返す。
けれど、ミトスにく、と手を引かれて、それ以上前には進めなかった。
まだ外にいたいのだろうか。振り返ると、彼は少しだけ視線を落として、あのね、と口を開いた。
「どうしたの?」
「うん。……あの、勘違いだったら、ごめんね。……もしかして、ボクたちのこと、助けてくれた?」
なんのことだろう、と思っている間に、ミトスの手がひょいとわたしの体についていたらしい何かをつかむ。
それは、花びらだ。白い花びら。もちろん、この辺りにはない花のそれ。わたしにはどの種類のものか全然わからないけれど、博識な彼はどこに咲いている花か、すぐにわかったのだろう。フウジ山岳の花だね、と言われて、あー、と今度はわたしが苦笑いを浮かべた。
「……えっと、まあ……」
「ありがとう。ボクたちのために黙っててくれたんだよね?」
ミトスがそう、嬉しそうに笑うので。今さらそんなことはないです、とは言えなくて。
先ほどのジーニアスといい、彼らが鋭いのかわたしたちが間抜けなのかどっちかなあと思いながら、わたしはこちらこそ、なんてよくわからない返事を返した。