「あとで、こっそりロイドにも言ってあげて。あの子も一緒だったから。ああ、でも、一番頑張ったのは二人だよ。さっきもほら、ファンダリアの花の蜜をささーっと薬にして。すごかったよ!」
「あれは……前に、姉さまがオゼット風邪にかかったことがあったから」
さっきも言ったけど、と少し視線を通したミトスに、ちょっとだけやってしまったと反省する。
この話題が出たから、ミトスは外に一人で出て行ったのに。きっと、お姉さんとのことを思い出して寂しくなってしまったとか、いろいろとわたしの知らない事情があるんだろうけれど……でも、ここでごめんねと引き下がるのも、なんだかミトスの大好きなお姉さんに申し訳ない気がしてしまった。
それはたぶん、ミトスくんとマーテルさんを思い出してしまったからだと思う。ミトスくんが自分の話題を出す度に悲しそうにするなんて、彼女だったら絶対に悲しむだろうなって思ったから……だから、そのお姉さんとの思い出が、決して悪いものじゃないって言いたくて、わたしは言葉をつづけた。
「じゃあ、お姉さんのために覚えた、ミトスの優しさに今回も救われたってことだね」
ぱっと顔をあげたミトスは、その綺麗な目をまあるく見開いていて。こんな時になんだけど、やっぱり綺麗な目だなあと思った。
「お姉さんもきっと自慢に思うよ。素敵な弟だって」
「そう……かな」
「そうだよ。話聞いてるとすごく優しい人みたいだし。マー……わたしのミトスくんのお姉さんもね、すっごく優しくて、お人好しな人だったけど。ミトスくんが誰かを助かる度に、よく言ってたもの。自慢の弟だって。だからミトスのお姉さんも、きっと同じことを思うよ」
思い出すと、寂しくなってしまうのは仕方のないことかもしれないけれど。お姉さんとの思い出が、今わたしたちを助けてくれたことには、胸を張ってほしい。その方が、きっとお姉さんも嬉しいって、わたしは思うのだ。
わたしは彼のお姉さんのことを知らないから、勝手で個人的な意見でしかないけど……少なくとも、ミトスがとても大切にしていたお姉さんなんだから。すごいことをしたんだって、きっと褒めてくれるって、思う。
「……そうだといいな。また、褒めてくれたら……すごく、嬉しいな」
そうはにかむミトスが可愛らしくて、わたしは思わず彼の頭を撫でた。
彼はおとなしく撫でられてくれたけれど、うーん、やっぱり代わりにはならないだろうな。ちょっと苦笑してから、ごめんね、と手を離した。
「わたしじゃ代わりにならないか」
「ううん。……うん、代わりには、ならないけど。でも、キミに頭を撫でてもらうのは、好きだよ」
「……おばあちゃんみたい?」
「もう、違うってば」
ちょっとからかうつもりで言えば、ミトスがくすくすと笑う。
うん、よかった。元気そうだ。
いつの間にか緊張していたらしい体からほっと力が抜けると、それまでもずっと握っていた手をゆらゆらと引いて、ミトスがあのね、とこちらを上目遣いに見上げてきた。
「……ねえ、今度、ボクからも何か贈り物をさせてよ」
「贈り物?」
「もらってばかりだからさ。何か、ない? なんでも……は、無理だけど。出来る限りで用意するよ」
急に欲しいものと言われても困ってしまう。
それに、確かにこれまでお守り袋とか渡したけれど、どれもそんなにすごいものじゃないし、なんだったら全部袋だし、と思うと、何か贈り物をされる方が申し訳ない気持ちになるのだけど……何が贈り物がしたい、と告げるミトスはとっても期待した目でわたしの答えを待っているから、何も答えないわけにもいかない。
「必要なものじゃなくてもいいからさ」
「……そしたら、これはその、ただの憧れの話だけど」
いろいろと考えて、別にこれが欲しいわけじゃないんだけどと前置きをする。
ただ、もし、贈り物をもらうのなら。なんとなく、こういうのに憧れるなって、それだけの話。
「花束をもらってみたいかな」
花束を贈られるのって、ちょっと憧れがある、のだ。
綺麗な花というだけでも気持ちが高揚するし、ほら、よくドラマやアニメで花束を贈るシチュエーションとかあるし。あれを見るたびに、綺麗だなあ、素敵だなあ、って思ったりしたのだ。
ちょっと乙女みたいな思考で、それなりに恥ずかしいのだけれど。それでも人間みんなちょっとくらいロマンチストな思考を持っているということで許してほしい。大きい花束、もらってみたいじゃない。
「花束、か」
「あー、でも、もらっても困ると言えば困るかな。旅をしてると持ち歩けないし」
「……じゃあ、贈り物にできないじゃない」
それもそうだ。
でも、実際花束なんてもらっても困るのは事実だし。憧れはただの憧れだ。
わたしはもう一度ミトスの頭を撫でて、ゆったりと笑った。
「なんでもいいよ。君からもらえるものなら、きっとなんでも嬉しいから」
ちゃんと本心だよ、と言えば、彼はずるいよ、と頬を膨らませる。
でもきっと、こういう時間が一番好きかも、と、わたしはこっそりと思った。