100-2

入口で途方に暮れていた、ユミルの果実を欲しがる子供の願いを叶えるために森の中を駆け回る。懐かしい。昔、マーテルさんのために探したことがあったっけ。
あの時と同じような、違うような。ちょっと不思議な気持ちになりながら果実を手にして、子供に渡して。その子が果実を求めた理由であるお母さんの調子がよくなるように、と願いながら、今度こそ里の入口へと向かう。

「……無事にここまでたどりついたか」

そうして……まるでわたしたちを待ち構えるように、入り口に立っていたクラトスさんを見つけて、ロイドはぐっとこぶしを握った。

「なに……! じゃあ、お前はやっぱり、コレットの病気を治す方法がわかってたんだな」
「だから……どうだと?」
「どうしてだ! どうしてコレットを助ける手がかりを教えてくれた? それにどうして、コレットの天使疾患が勇者ミトスの仲間と同じ病気だったとわかったんだ!」
「それを聞いてどうするのだ」
「それは……」
「……時間がない。急げ」

相変わらず、いろいろと情報をくれる割には、完全にわたしたちの味方になってくれるわけでもないようだ。彼に聞きたいことはたくさんあるのに。
クラトスさんは、何も語らない。
クラトスさんは、わたしと目もあわせない。
ロイドの横を通り過ぎて、声をかけようとしたわたしのことに気付かないような顔をして、そのままどこかへ行ってしまう。

このまま彼のことを追いかけたい気持ちもあるけれど、優先すべきはマナリーフを取得することだと、この場にいる全員がわかっている。
だから後ろ髪を引かれる思いで彼を意識から振り切って、今度こそ里に入ろうとして……がちんと、槍を持っていた門番によって、前を塞がれた。

「ここはエルフの里。ハーフエルフはここを通ることまかりならん」
「そんな!」
「これはかつてハーフエルフに村を荒らされた我々の自衛手段だ。それが嫌なら、人間の進入も許可できん」

どうやらリフィルさんとジーニアスは入ってはいけない、という意味らしい。当然、ロイドは抗議するけれど、人間の進入も許可できないと言われてしまっては、無理やり突破するわけにもいかない。
悔しそうに歯噛みするロイドに、リフィルさんとジーニアスは穏やかにうなずいて、一歩後ろに下がった。

「ロイド。私たちはここで待ちます。あとは頼むわね」
「……わたしもここで待つよ」
「ナギサ?」

二人の言い分はわかっても、わたしまで入らない、という理由がわからなかったのだろう。不思議そうにするロイドに、わたしはへらりと笑った。

「その……わたし、ほら。一応、四千年前に、追放されちゃった、わけだし……まあ、もうその時の人って、いないと思うけど。……イセリアの人たちと違って、エルフって頭が固いから」

実際、わたしを追放した、ということを知っている人は、もういないだろう。かつて人間を追放した、という資料くらいは残っているだろうけれど、それがわたしだと結び付けられるわけがない。特別何か魔法をかけられたわけでもないので、素知らぬ顔で中に入ったって問題ないと思う。
でも……でも、なんか、やっぱり、嫌だった。
この場所に入るのが嫌だなって、思ってしまった。あの時よりさらにハーフエルフを拒絶するようになったこの里を……それでもまだ、大切な思い出があるこの里を。今、よくない気持ちで上書きしてしまいたく、なかった。

「……わかった。三人とも、ここで待っていてくれ」

詳しく語らないわたしに、けれど何か察してくれたのだろう。
ロイドはそう言って、すぐに戻るから、と笑った。