高低差の激しい谷の中を、植物の力も借りながらなんとか進んでいく。
目的の人である語り部さんはこの渓谷の奥の方……というか、だいぶ高い部分に小屋を構えているらしいので、とにかく登っていくしかない、のだけれど。今まで通ってきた山道は、ある程度人の手が入っていたのと違って、ここは自然そのものだ。必然的に他の山道よりもずっと険しくて、歩きにくい。
ミトスくんとマーテルさんと暮らしている時だったら登り切れなかっただろうな……なんてことを考えながら、とにかく前へと進んだ。
「やったぜ! 俺の……」
「オレさまのスペシャルウルトラゴージャスボンバーが炸裂だ!」
「あっ? 今のは俺の攻撃だろ!」
「こらこらハニー、おかしなこと言っちゃ困るよ。どう見たって、オレさまのゴージャススペシャルマッチョボンバーだっつーの」
「俺の攻撃だったって。それにいつの間にそんな名前つけたんだよ。微妙にさっきと変わってるし」
……とまあ、わたしはこんなにひいひい言っているんだけど。もちろん、こんな状況でもものすごく元気いっぱい賑やかな人たちもいる。
渓谷を進みながら、出てくる魔物たちを相手しながら、それでも元気に盛り上がっているロイドとゼロスくんは、いったいどれだけ元気が有り余っているのだろう。ロイドはともかく、ゼロスくんはこういう時いの一番に休憩を申し出てくれるのに。
今もわいわいと名前がどうこうどっちが活躍したどうこう、大騒ぎの彼らに、へばっていたわたしとジーニアスは顔を見合わせると、はあ、とため息を吐いた。
「二人ともーうるさいぞー」
「遊んでると、おいてっちゃうぞー」
ちょっと適当にそう呼びかければ、彼らは騒ぐのをやめて待ってよー、と声をそろえて駆けてくる。
うーん、やっぱりロイドとゼロスくんは仲良しだなあ。なんだかその様子が面白くて笑ってしまえば、同じ意見の人達が他にもいたのだろう。だんだんと笑い声が伝播して行って、とても険しい山道とは思えないくらいに穏やかで賑やかな時間になってしまった。
そうしながらなんとか登ってきたそこで、ようやっとそれらしき小屋を見つけてほっと息を吐く。
なんとなく、ぱっぱっと服についた汚れを振り払ってから、わたしたちはノックをして、その扉を開いた。
小屋の中は外で見るより広い。壁に取り付けられて、ごおん、ごおん、と音を立てて動く機械は大きな歯車のようにも見えるけれど、これは機織り機なのだろうか。
中で作業をしていたらしい、フードを被ったエルフの老人がこちらへ振り返って、驚いたように目を見開いた。
「……人間? それにハーフエルフか?」
「ああ、あんたが語り部だな。マナリーフをわけてほしいんだけど……」
「お願いします」
「長老のあかしは……持っているな。必要なだけ持っていけ……と言いたいのだが……」
「何かまずいのか?」
「少し難しい場所にあるのだ。お前たちがとってこらえるかどうか」
ふむ、と黙り込んでしまったあたり、相当むずかしい場所にあるのだろうか。
でも、この人がそれなりの頻度で採りに行ける場所にあるはずだ。そう思えば、頑張ってできないことではないような気がした。
「俺様たち、一応ここまで登ってきたんだぜえ。どんな場所にあっても、何とかとってくるって。……ロイドくんが」
「……おまえなー」
「私からも頼みます。教えてください」
ちょっとふざけつつも、真剣に頼んでくるわたしたちを見て、本気だとわかってもらえたのだろう。
少しの間目を閉じて逡巡していた語り部さんは、それなら、とうなずいてくれた。
「むう……わかった。ついてきなさい」