語り部さんに小屋の前にかかっている橋まで連れてこられたところで、彼は足を止めてわたしたちに向き直る。
どうやら、目的のものはこの先にあるらしい。
「この先の洞窟に薬草がある。気を着けなさい」
「よし、じゃあみんな行こうぜ」
難しい場所、というのがどんな場所なのかはわからないが、行ってやれないことはないだろう。
あともうひと頑張りだ、と意気込んで橋を渡ろうとしたところで、おや、と声をかけられて足を止めた。
「その帯は……不完全ではあるが、エルフの織物だな」
そっか。この語り部さんもエルフなんだから、帯を見てエルフのものだと気付いて当然か。ヘイムダールに入らなかったせいでエルフと会うことがなかったから忘れてたけど……気になる人は気になるよね。
「は、はい。……失敗作だと捨てられそうになったところを譲ってもらったと聞いています」
「そうか。うむ。今はもう我らしか知らぬ織物だ。不完全でも、それなりに加護もあっただろう。……そうか。そうか。まだ、これは残っていたのだな」
「残って……?」
「失敗作をわざわざ処分しなかったのは、記録のうえでは一度きりだ。その帯は、遥か昔にヘイムダールにとどまっていた人間に渡された」
記憶をたどるように目を閉じて、そう語り出す彼にはっとする。
それは……もしかしなくとも、わたしの話だ。
語り部ってそんなことも記録するんだ、という驚きは、やがてわたしがかつてヘイムダールにとどまっていたことを今も知っている人がいる、という安心感に似たなにかに変わる。
わたしと彼らの物語は、確かに存在していたのだと、再認識する。
「それって……」
「どこでその帯を手にしたのかはわからぬが、どうか大事にしておくれ。必要なら、織り直そう」
そのままでも十分使えるものだが、と語る彼は、きっとわたしがこの帯を遠い先祖か何かから譲り受けたものだと思ったのだろう。
優しい申し出だった。本来の力を使えた方がいいのはわかっているし、うなずいた方が、きっとこれからの助けにはなると思う。
思うけど。わたしは、首を横に振った。
「……いえ。このままで大丈夫です。これは……大事な人からもらったものですから」
彼らからもらった思い出と一緒に、わたしはここまで来た。彼らとの思い出を胸に、自分を奮い立たせてきた。
この帯は、そんなわたしとずっと一緒にいてくれたものだ。たとえ、織り直した方がいいとわかっていても……少しの間も離れがたい。ほんの少しも、かつての姿から変えたくない。そう思ったのだ。
細かいことは説明しなかったけれど、わたしがこの帯を大事にしていることだけは伝わってくれたのだろう。
そうか、とうなずいた語り部さんは、どこか優しい表情に見えた。