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滝の裏にあった洞窟にどうにか入ったあと、マナリーフを護るように現れたプランティクスとの戦いを終えて、なんとかマナリーフを手に入れることができた。
巨大植物との戦いと滝の裏にある洞窟に入ること、いったいどちらが「むずかしい場所」の意味だったのかはわからないけれど、目的のものが手に入れられたのなら些細なことだろう。
一応、無事にとってこれたことを報告してから次のことを考えよう、と再び語り部さんの小屋へ入れば、彼はわずかに頬を緩めながらわたしたちを出迎えてくれた。

「無事に戻ってきたな」
「やっぱ知ってたんだな、マナリーフを守る巨大植物のこと」
「うむ。もっとも、それを教えたところでおまえたちの行動は変わらなかっただろう。非常に強い意志を感じた」
「当たり前だ。大事な仲間のためだからな」
「……ロイド」

間髪入れずに宣言したロイドに、コレットが瞳を潤ませる。
それから、ぎゅ、とまぶたを閉じると、再びいつも通りの愛らしい笑顔を浮かべて顔を上げた。

「ところで……あなたはずっと、ここに住んでいるんですか?」
「そうだ。私はエルフの里の伝承を時代に受け継がせる者。ここでマナリーフの織物を作り、ある様々な物語を編み込んでいるのだ」

エルフは長命であり、多くの物語を体験する。けれど、生きる限り、どうしても記憶には偏りができるものだ。すべての物語を平等に、客観的に残すすべがなければ、長命の身であったとしても、多くの技術や伝承が失われる。
長く生きるからこそ、物語を編んで残すのだ、と語る彼に、へえ、とわたしたちの一部のメンバーが表情を明るくした。エルフが語り継ぐ物語には純粋に興味があったし、ちらりと示され壁にかかった織物が、素直に美しいものに見えたからだ。
だから、自然なことだった。その話題を聞くのは。

「どんな物語があるんですか?」
「空から飛来したエルフの伝承や人の誕生、バラクラフ王朝の繁栄と衰退。天使の出現、大樹カーラーンとカーラーン大戦……そして勇者ミトスの物語」

聞き慣れた単語に少しだけ反応すれば、その横でゼロスくんが大げさに声を上げる。
どうしてそんなに、と思ったけれど、ヘイムダールのことを思い出したのだろう。あの場所は、今は何故か、ミトスくんたちの話をすることを禁止しているらしいから。
それなのに、同じエルフである語り部さんその話題を出したことが、不思議でならなかったのだろう。

「おいおいおい、勇者ミトスの話ってのは、ヘイムダールじゃ厳禁なんだろ」
「ここはヘイムダールではない。私はヘイムダールのおきてに縛られないようにここに住み、伝承を残している」

おきては多くの生き物が共に生きる上では大事なことだけれど、語り継ぐという意味ではしがらみにしかならない、と語る彼に、わたしは無意識に、胸元に今もあるペンダントを握りしめた。