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「勇者ミトスって、何者なんだ? 俺たちの旅には、いつもついて回っているな」
「精霊の契約にもミトスの名前が出てきたね」
「ミトスは……コレットの病気の伝承にも名前が出てきた」

ロイドたちの疑問は、至極当然のことだ。わたしだって、どうしてこんなに常に彼の名前を聞くのだろうと思うほどに、彼の名前は常にわたしたちの旅について回ってきた。
わたしは、勇者ミトスの伝承として、ミトスくんの話を聞くのは好きだ。かつての彼と同じように世界を救おうと駆け回るのは、長い時代を越えて、彼と共に旅をすることができる気がして、少しだけ喜んでいた部分もある。
けれど……偶然で片付けていいのか、と思うほどに、彼の名前を行く先々で聞くのも事実だ。停戦を目指した彼と、二つの世界を救おうとするわたしたち。同じようで、違う目的を目指して歩いているはずなのに、どうしてこんなに足跡が重なるのだろう。

「ミトスは……ヘイムダールに生まれ、カーラーン大戦がはじまると、村に現れた人間と共に村を追放されたあわれな異端者。だが、その人間も戦火に巻き込まれて死んだと聞いている」

わたしたちの疑問に答えるように語り出されたそれは、確かにわたしの知るミトスくんのものだ。細かい理由とかはさすがに省略されているようだけれど、生まれ故郷も、追放された頃のことも知っていることと同じである。
むしろ、わたしが死んだこと、そんな風にここに伝わっているんだ、と少し感動したくらいだ。わたしのことなんていちいち語り継ぐ必要もないと思うけれど……それば、彼が残した「異世界の女性」の記述に合わせて、ここでも語られているのかな。だとすると、ちょっと変な感じだ。

「勇者ミトスがハーフエルフだって信じがたかったけど……マジでナギサの言う通りのやつだったんだな」
「彼は村に帰るために三人の仲間と共にカーラーン大戦を終結させた。ミトスの仲間もハーフエルフで、人間だったのはただ一人だけだ。彼らは異端視されながらそれを乗り越え、戦いを終結させたのだ」

朗々と語るミトスくんの話は、それだけ聞けば立派な冒険譚だ。世界を滅ぼすほどの戦争を終結させた英雄。その最初の目標が故郷に帰るためというのも、勇者という存在に対する親しみやすさや物語性を彩っているような気もする。
四千年前の、古代の時代の、英雄たち。
だからこそ、リーガルさんは不思議そうに首を傾げた。

「……そんな彼らの名が、何故ヘイムダールでは禁忌なのだ」
「ハーフエルフだからだ」
「……それは、違う。オリジンに愛されし、勇者ミトス。それは堕ちた勇者の名前だからだ」

ジーニアスの言葉に語り部さんは首を振って、そう語る。
今度はわたしが首を傾げる番だった。だって、ここまで語られた彼の物語と、ずいぶんと違う雰囲気の言葉が出てきたから。
……堕ちた、とは、どういう意味なのだと、胸がざわついた。

「ミトスくんが、堕ちた勇者……?」
「オリジンを裏切り、オリジンから与えられた魔剣の力を利用して、世界を二つに引き裂いたのは、ほかならぬミトスとその仲間たち」

どくりどくりと、胸が騒ぐ。
聞きたくないと、足が震える。
……予感が、したのだ。嫌な予感が。その言葉の先に続く言葉がなんなのか、想像してしまったのだ。
わたしが何度も考えて、悩んで、わからないなって首を振って。その中で、見ないようにしてきたことが……言葉として、形になろうとしていたから。

「ミトス・ユグドラシルとその姉マーテル。そして彼らの仲間、ユアンとクラトス。四人の天使が世界を変質させた。ゆえに、ヘイムダールでは禁忌なのだ」