90-3

「……私もごめんなさい」

村長がもう勝手にしろと走り去った後、これからのことをいろいろ考えなくちゃ、とそれぞれ解散しだしたところで、ショコラさんがロイドに深く頭を下げた。
突然のそれにロイドは驚いて止めようとするが、彼女はちゃんと謝りたいの、と言って、まっすぐに彼を見る。

「助けてもらったのに……ずっと素直になれなかった。私……牧場で聞いたの。あなたたちがおばあちゃんに優しくしてくれてたこと。……ありがとう」

私のことを、おばあちゃんのことを、助けてくれて。
そう言ってほほ笑んだショコラさんに、ロイドもジーニアスもまた瞳を潤ませる。長く引っかかっていた胸のつかえが、ほんの少しだけとれた感覚だ。
よかった。……よかった。あの人のお孫さんを、助けることができて。
よかった。ロイドが頑張ったこと、ちゃんとわかってもらえて。よかった。

「ううん……よかった」
「俺、マーブルさんのこと忘れないよ。……一生忘れない」

ありがとう、と言って、笑いあってから、さて、と彼女はまた明るい笑顔を浮かべる。
ここにお世話になるんだから働かないと、と腕まくりをして駆け出したショコラさんを見送ってから、わたしたちはリフィルさんを迎えに行かなくちゃと、彼女が走って行った方向へと歩く。
小さな村だ。その道がどこに続くのかはもうわかっている。

「リフィルさん」

予想通り、燃えたままになっているセイジ姉弟の家の前に佇む彼女を見つけて、そっと声をかける。
彼女はわたしたちが来たことに気付くと、さっと目元を拭って……それから、何度も表情を取り繕おうとしては、失敗して。やがて、泣き出しそうな笑いだしそうな、普段の彼女がなかなか浮かべないような表情を浮かべて、心配かけたわね、とこちらへ歩いてきた。
わたしたちは、そのことに何も聞かない。人前で泣き顔を見せられない気持ちなんて、みんなちゃんとわかっているもの。彼女だって、触れずにいつも通りに流してほしいと願っていることが伝わってきたので、せっかくだからテセアラ組に村を案内しようと、いつも通り緊張感のない空気で笑った。

「ここは、小さいけれどいい村だと思います」
「ええ。この村も、案外捨てたものじゃなくてね」
「リフィルさまなら村長に、もっときびしーこと、言うと思って期待してたんだけどなあ」
「あら。豚に説教する馬鹿がいて?」
「……こりゃ失敬……」

キレキレの皮肉に苦笑しながら歩いていると、ふと、門のところにコレットとクラトスさんが経っているのが見える。
どうしたのだろう。門の前でノイシュを構っているあたり、おそらくわたしたちを待っているのだと思うけれど。もう彼女の体調は大丈夫なのだろうか。
そう駆け寄るより先に、ロイドが二人のところへ駆け寄った。

「コレット! もう大丈夫なのか?」
「うん……なんとか……ごめんね。心配かけちゃって」
「ファイドラ殿とフランク殿の依頼を受けて、お前の父親のところへ神子をつれていく」
「親父のところ? どうしてだよ」
「クルシスの輝石のことは……ドワーフの方が詳しいからって、おばあさまが……」

確かに。わたしたちには輝石……というより、エクスフィアのことは何もわからないけれど、ドワーフであるダイクさんなら、わかることも多いだろう。

「そうか……そうだよな。じゃあ俺も、一緒に行くよ。たまには親父にも顔を見せないとな」
「そうするといい。私は、神子を送り届けたらクルシスに戻る」

クラトスさんの発言に、ロイドは少し微妙な顔をしたけれど、言葉にはしない。
そうして、こちらへ向かっているはずのしいなに伝言を残してから、わたしたちは久しぶりにロイドの家へと歩き出した。