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「一度、情報をまとめておきましょう」

リフィルさんがそう提案したのは、渓谷から出てすぐの夜営の時だ。
語り部さんから聞いた情報を、あの時もちゃんと飲み込んだはずだけれど。改めて、時系列に並べることで整理しておきたい、というのは、きっと方便だ。この情報をまとめることの主な目的が、わたしを落ち着けるためだというのは、さすがにわかる。
未だに動揺が止まらず、先ほどからものを落としたり何かにぶつかったりすることを繰り返すわたしのために、わざわざ時間を割いてくれているのだろう。
それなのに、拒否する理由もない。わたしは彼女の前に座り直すと、はい、とうなずいた。

「まず、ナギサ。あなたの持つ四千年前の……古代大戦時代の知識の確認よ。あなたは、あなたを助けたと言うミトスくんとマーテルさんというハーフエルフの姉弟と共に、ヘイムダールで暮らしていた」
「……間違いありません。追放された理由も、わたしがそこにいたエルフと衝突したことがきっかけです。その後、シルヴァラント領へ向かいながら転々として……大樹カーラーンの前で、この世界を変えたい、戦いを終えたいと、話をしました」
「機織りの人の話と矛盾するところはないよ。例の勇者ミトスが異世界から女性についての資料も読んだんだよね?」
「うん。……間違いなく、勇者ミトスは、わたしのミトスくんだと思うよ」

勇者を鼓舞したという、異世界からやってきた女性。それは、語り部さんが話すところの一緒に追放されたあとに戦火に巻き込まれて死んだ人間だ。
帯のことも記録として把握していたようだし、彼が語ったことに間違いはない。だから勇者ミトスは、わたしのミトスくんで間違いない。
リフィルさんはひとつうなずいて、話を続けた。

「そして、ナギサの見た、戦争を続けるシルヴァラントとテセアラの名前を持つ国からして、この二国が、現在の世界の基盤にあるものなのでしょう。勇者が勇者になる前、二つの世界が、ひとつだった世界だった証明ね」
「そして、ナギサがいなくなった後に、ミトスには仲間ができた……」
「マーテル、ユアン……そして、クラトス」

勇者ミトスと、その仲間たち。
表立って語られていないはずなのに、やけに聞き慣れた名前たち。

思えば絶海牧場に行く前、「世界を引き裂いたのはユグドラシル」であると話してくれたのはユアンだ。
そしてその後、ロイドに頼んで聞いた話によれば、ユアンがわたしのことを知っている様子なのは「かつての仲間から聞いた」からと彼は言った。
ミトスくんの仲間として、四千年前に共に旅をしたのなら、わたしの話を聞くこともあっただろう。だからこの記憶はそのまま、ユアンが彼らの仲間であったことと、彼らが天使となったために今もまだ生き続けているのだということの証明でもあった。

……いつだったか。クラトスさんがわたしをクルシスのところに行くようにと言ったのは、このことを知っていたからなのだろうか。
クルシスがわたしを追っていたのは……そこに、ミトスくんがいたからなのだろうか。

「彼らはクルシスの輝石を使って、人間でもエルフでもハーフエルフでもない、天使という新しい種族へと変化した」
「その結果、体の時間が止まり……今もまだ、生きている、んですね」
「自分の意思で生きているならまだしも、輝石で意識だけを繋ぎとめて無理やり生かす、なんてこともできるんだから、本当に手に負えねえや」

どうしてそこまでして、という疑問は、なんとなくはわかる。
だって、ミトスくんはマーテルさんが大好きだったから。彼はいつだって、彼女のために一歩を踏み出していた。戦争を終わらせるのだって、マーテルさんの言葉が最後の一押しになっていたはずだ。
でも、どうして、って気持ちは、止まらない。だって、世界はマーテルさんが望んだような優しいものになっていないどころか、苦しんでいる人ばかりだから。

「ここの詳しい時系列はわからないけれど……ただの少年であったミトスはナギサと分かれ、三人の仲間と共に戦争を終わらせた。そして、その救ったはずの世界を……魔剣で引き裂いた」

少年は勇者となり、世界を救った。
勇者は天使となり、世界を引き裂いた。

どうして、こうなったのだろう。
何が、あったのだろう。
わたしが彼らと別れた後、彼らはどんな旅をして、どんなことを思って……どんな気持ちで、世界を引き裂いたのだろう。
どうして。どうして。
どうして。

「ユグドラシルが……クルシスが復活させたい女神マーテルは、そのままミトスのお姉さん、なんだよな。仲間たちの中で、一人だけ死んでいる人……」
「彼女の死が、何か大きなきっかけになっているのかもしれぬな」
「けれど……世界を引き裂くことになる経過がわからないわ。もしかしたら、ここは別の話なのかも」
「……キーワードの魔剣、というのは、オリジンとの契約によって手に入れたものなのでしょうか」
「たぶん、そうさ。語り部の話の通りなら、オリジンをだまして手に入れたことになるけど……」

わたしはただ黙って、みんなの話に耳を傾ける。
ううん、傾けているだけで、ちゃんと頭の中に入っているのかは、ちょっと怪しい。
ぐるぐると重たいものが胸の奥側で渦巻いて、息苦しくて、よくわからない。落ち着いているような、落ち着いていないような。急に体が重くなったような気もして、顔があげられない。

「ユグドラシルこと勇者ミトスが、オリジンとの契約によって手に入れた魔剣で、女神マーテルの復活のために、世界を引き裂いた……誰がどうやって何を目的に、というのはわかっているはずなのに、今はもう、これ以上はわからないね」
「ユグドラシルが勇者ミトスで、クラトスとユアンがその仲間だった、ってことがわかっても……今、俺たちにできることは、変わらないもんな」

そう、止まってしまった会話にも気付いていたのに。何も言えずにぼうっとしていれば、よし、と大きな声を上げた人に手を掴まれたのがわかった。
さすがに、触れられれば反応する。びっくりする。驚いて顔を上げたところで、手を掴んだのがしいなだとわかった。
彼女はちょっとだけ困った顔をして、それから、ぐいと一気に腕を引いてわたしを立ち上がらせた。

「……ナギサ、ちょっと、外を歩こう。……ひどい顔色だよ」

こういう時は散歩でもした方がいい、と言って手を引いて歩き出した彼女に、わたしはなんとかうなずいた。