104-2

「しっかし、本当に、頭が爆発しそうだね」
「……うん」

野営地から少しだけ離れたところまで移動して、しいながぐぐ、と伸びをする。
情報は大事だけれど、まとまって襲い掛かってくると頭が痛いよ、と笑う彼女はいつも通りだ。だから、わたしもいつも通りでいないといけないって思うけど……うまくいかない。
きっと不格好になってしまった笑顔にしいなは眉を下げて、それから、ちょっと気まずそうに頬をかいた。

「……その、連れ出しておいてなんだけどさ。あたし、慰めるのは得意じゃないんだよ。でも……話を聞くくらいなら、いくらでもできるよ。……考え込んで塞ぎ込むくらいなら、なんでも吐き出しちまいな」
「しいな……」

話が上手にまとまってなくてもなんでもいいさ、と胸を叩くしいなに、わたしはちょっとだけ目頭が熱くなるのがわかる。
優しいな。優しい。好きだな。彼女だって、いろんなことを抱えているのに。相変わらずわたしは情けないなと思いながら、今だけ甘えようと、口を開いた。

「……わたし、ミトスくんとマーテルさんが、今もずっと大好きなの。だから、二人が救っただろう世界を、守りたいって、元の形に戻したいって……ずっと、そう思ってたの」

ロイドとジーニアスと一緒にイセリアを追放されたとき。
取り返しのつかないことをしてしまった後悔から歩き出したことは事実だ。あの時はまだ勇者ミトスのこともよくわかっていなかったし、ただ、昔果たせなかった約束の代わりにとか、村での後悔とか、いろんなことを抱え込んで、せめてシルヴァラントを再生させなくちゃって、思っていた。
コレットの天使疾患を知って、天使になることの意味を知ってからは、彼女を助けたいと思った。大好きな彼女を守りたいって、心から思った。
その時に勇者ミトスがミトスくんなんじゃないかって思って、知って……それなら、この二つの世界を救うことが、わたしがミトスくんたちに出来る唯一のことなんだろうなって、思って。二人が救っただろう世界を守りたいって、思うようになった。

だから、わからなくなってしまったのだ。
わたしが追いかけてきたものが、わたしの中の幻想だというのはわかっている。ミトスくんたちとはもう会話できないから。きっとこれがわたしに出来ることだって、勝手に思い込んで選んできただけ。選んで、その先で生じた責任を負わなきゃって、思っただけ。
そこに、女神マーテルはわたしのマーテルさんで、もう死んでしまったけれど生きているとか、そんなことを言われて。
マーテルさんをよみがえらせるためにみんなを苦しめるユグドラシルがミトスくんだって言われて……わからなくなってしまった。
わたしのしたかったことって、なんだろう。
わたし、どうして彼がこんな選択をしたのか……まったく、わかってあげられない。

「ミトスくんがユグドラシルだっていうのは……まあ、名前が同じだから、そっか、って、思っちゃうところもあるんだ。それを前提にすれば、そうだねって納得することも多いし。ミトスくんはマーテルさんのことが大好きだったから。たった二人の姉弟で、二人で生きてきたから……生き返らせたいと思う気持ちは、わかるよ。でも、だからって、世界をゆがめてまで、どうしてマーテルさんを生き返らせようとするのかは……わからない」

……彼の望む世界を作る、手伝いがしたい。
……彼と、ずっと一緒にいる。
そんな約束を、わたしはミトスくんと繰り返してきた。
もう叶わない約束だ。それが悲しくて、悲しくて……ミトスに違う約束をしてもらうくらい、今もまだ、彼のことを思っている。
でも、わからないから。理解できないから。彼のところに駆けつけることもできないし、そのくせ突き放すこともできなくて、わたし、ぼうっとしてる。……途方に暮れている。

「マーテルさんが大好きだった世界を、マーテルさんのために歪めたことが信じられない。もし、それが……一人になってしまうから、という、理由だったら。わたしが、そばにいることができなかったのが、理由だったら……わたし、どうしたらいいのかな。何を……今更……」

わたしは、彼を肯定できない。
ここまで見てきた世界が、選んできたことが、ミトスくんの選んできたことは正しかったよとは、言わせてくれない。
でもわたしは、彼を否定したくない。
こんな……こんな気持ちで、わたしはこれから、何を選べばいいのだろう。
わたしはこれから、ちゃんと戦うことが、できるのだろうか。