109-1

しばらくして、滲んでいた視界が元に戻っても、柱にもたれかかったままぼうっとしていれば、ワープ装置が起動する音が聞こえてきた。
あ、と思ってそちらに視線を向ければ、みんなが続々と現れるのがわかる。

「ナギサ!」

わたしに気付いてくれたらしいみんなと目が合って、ほっと息を吐いた。こちらへと駆け寄ってくるみんなに合わせてわたしも柱にもたれていた体を起こして、沸かれていた間の情報を共有する。
しばらくは天使たちの町であるウィルガイアに囚われていたみんなだけれど、どうにか脱出して、マナのかけらを手に入れることができたらしい。
よかった。これで、あとはルーンクレストを作ればコレットの病気は治る。本当によかった。安心してコレットを抱きしめれば、彼女もくすぐったそうに笑った。

「それで、そっちは話……できたのかい?」
「できたと言えば……できたのかもしれないけど……」

控えめに聞いてきたしいなに、わたしは逃げ笑いを返すことしかできない。
彼がしようとしていることの動機は理解できたと思う。共感もした。でも、わたしはその道を選べないし、こちらへおいでと手を出しても彼は絶対に手を取らない。逆も同じだ。
わたしたちは、手を取り合えない。ううん、裏切られるくらいなら手を取ることをしたくない、ただ生きていてほしい……そんな言い方だった。
相変わらず途方に暮れたような気持ちのまま、それを上手に説明できる自信もなくて。わたしは、ごめん、と視線を落とした。

「理解はできたけど……選べない、みたいな。ごめん。わたしもちょっと、ぐちゃぐちゃしてて……」
「……そっか」

ぼすりとしいなに背中を叩かれる。ちょっと痛いけれど、いつも通りの力加減。それにちょっと安心したような気持ちになった。
とにかく、早くアルテスタさんのところに戻ろう。そう言って仕切り直して、さあ外へと歩き出したところだ。今度は、足を止めたのはロイドだった。彼の視線は祭壇の中央に刺さったままの剣に向けられている。

「この剣は、たしかユグドラシルが俺に斬りつけてきた剣……」
「……まさか、これが魔剣、エターナルソード?」
「おいおいおい、そんな大事な剣なら、こんなところにほったらかしにしてねーだろ」

たしかに、ゼロスくんの言う通りだ。
この剣が世界を引き裂いたという魔剣なら、こんな場所に放置しているはずがない。どこかに監視カメラとかあるのかもしれないけれど、それにしたって無防備すぎる。
でも、救いの塔に安置されている、という時点で、非常に興味を引く剣であることも事実だ。ロイドは少し悩んで、じゃあさ、とこちらを振り返った。

「これを持って帰って、ヘイムダールの族長に見せてみたらどうだろう」
「そうだね。そうすればはっきりするよ」

ただの飾り用の剣だったとしても、それはそれでいいだろう、とロイドが剣に手を伸ばした時だ。

───資格なき者は、去れ

そう、声が響いて、ロイドが何かに弾き飛ばされるように後ろへ吹っ飛ぶ。
慌てて駆け起こした彼に、特に怪我はない。けれど、触ることすらできずに吹っ飛ぶなんて何があったのだろう、と彼も不思議そうに目を白黒させた。

「いてててて……どうなってるんだ」
「無駄なことはやめるんだな」

静かな声が降ってくる。
その剣に触れることなど出来ぬと、低い声が語るのが聞こえて、思わずぴくりと肩が跳ねる。
見上げれば、いつの間にそこにいたのだろう。祭壇の上からわたしたちを見下ろすミトスくん……ユグドラシルの姿があって、わたしはまた、ぎゅうっと胸が痛んだ。