109-3

「なに……?」
「ロイドは、コレットも世界も救える方法を探してる。お前は……それをあきらめた、いくじなしだ!」

同族であるジーニアスから、そんな言葉が飛び出してくるとは思わなかったのだろう。
ミトスくんは驚いた表情を浮かべて、けれどすぐにそれを引っ込めると、先ほどよりも強い声色で語り出した。

「同じことだ。私は何者も差別されない世界を作ろうとしている。それが世界を救う道だ」
「何者も差別されない国? それは……」
「人は異端の者に恐怖し、それを嫌悪する。自分と違う者が恐ろしいのだ。ならば、皆が同じになればいい。エクスフィアを使い、体に流れる人やエルフの血をなくせば、この地上の者は全員無機生命体化する。そこに生まれも、種族も、何も差はない。同じ時を生きられる。差別はなくなる。それが私の望む千年王国だ」

ああ、と。
気を抜けば、膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
ミトスくんの根本はきっと変わっていないのだろうと、先ほどの会話の中でもわかっていた。マーテルさんのことが大好きなのは、何も変わらないって。ただ、手段を択ばなくなっただけだって。それは、とても悲しいけれど、わたしの知らない四千年を生きた彼の成長であると言われれば、納得してしまうようなことだった。
だから、だから驚いてはいけないのだ。変わっていないのだから、当然だ。それでもわたしは、崩れ落ちて、泣いてしまいそうだった。

───約束するよ。戦争を終わらせて、誰にも迫害されない、みんなが生きられる世界を作るって

あの時と変わらない言葉を口にしているって、気付いてしまったから。
彼の目指すものは、やっぱりあの頃から変わらないって……わかってしまったから。

「みんなが……同じ……」
「そうだ。ディザイアンもクルシスもそのために組織されている。差別を生む種族の争いは消えるのだ、ジーニアス」

ジーニアスにとって、その理想は、とても魅力的なものなのだろう。ううん、彼だけじゃない。きっと、ハーフエルフたちにとっては、とても素晴らしいものなのだ。
ディザイアンのフォシテスも言っていた。千年王国を必ずや、と。長く、種族の違いで迫害され差別されてきた彼らにとって、「種族」という概念自体が消えてなくなることが、自分たちが苦しみから解放されることなのだと、心から思えるものなのだろう。

ふらりと前に出る彼を、リフィルさんは悲しそうに見つめる。彼女も、制止の言葉はかけない。きっと、弟の手を引きたいだろうに。
止めるだけの言葉が、彼女の中にはないのだ。彼女だって、ずっと、長い間。両親から捨てられ弟を連れてさまよっていた間、多くの苦難があったから。きっと……自分がそう生まれたことを、苦痛に思ったことが、あったから。

「……差別されなくなるの? 本当に?」
「だまされるな、ジーニアス! そのためのエクスフィアはどうやって作られていた? マーブルさんみたいに、誰かの命がけずられてエクスフィアができるんだ。そんなの……おかしいじゃねーか!」
「……改革に犠牲はつきものだ。それがわからないなら、ここで朽ち果てるがいい」

ロイドの言葉を聞いて、ジーニアスはうなだれる。
今、ロイドとミトスくんが口にしていることはどちらも同じだ。みんなが種族なんて関係なく自分らしく生きられる世界を、二人ともが口にしている。
ただ、ロイドはまだ駆け出している途中で、ミトスくんはその果てで多くのものを犠牲にして改革を進めようとしている。手段が違うのだ。決定的に。ロイドは誰のことも犠牲にしたくないし、取り零したくない。ミトスくんはもう、自分が救うと決めた人だけを救おうとしている。

……二人のこと、よく似てるなって、思っていたの。もしもミトスくんがここにいたら、きっと手を取れるだろうなって、想像したりしたの。
でも、だめだ。二人の見据えているものは、限りなく似ているけれど、まったく違う。手を取り合えたかもしれない、と願うには、もう遠く離れすぎてしまっていた。
……そして。綺麗ごとだって、わかっていても。わたしは、誰のことも犠牲にしない、人間もエルフもハーフエルフも同じように生きる世界が欲しいと願うロイドの理想に共感している時点で。もう、ミトスくんの隣に立つ資格がないのだ。

「ただし、神子は渡してもらう」
「……ダメだ! それだけはさせない!」

目の前に移動してきたミトスくんに、ロイドが武器を構える。
ううん、彼だけじゃない。みんなが、ここで戦わなければとそれぞれ構える。

その中でわたしは、どうしても帯を広げることができなかった。
戦えない、戦えないよ、わたし、無理だよ。
彼からもらった帯で、彼と戦うなんて、できない。

「わ、わたし……!」
「姉貴はさがっていてくれ!」

後退りするしかできないわたしの前に立って、ロイドがそう叫ぶ。
「……あんたは、本当に勇者ミトスで……ナギサがあんなに何度も話してくれた、ミトスくんなんだな」

それなのに、と。彼は呟いて。
それから、彼は悲痛に表情を歪めながらも、ぐ、と柄を握り直した。