110-1

嫌だ。見たくない。
ここまで一緒に旅をしてきた大切な仲間と、ずっと思っていた大切な人が戦うところなんて、見たくない。

けれど、双方が戦うと決めたのなら、戦いが起きるのは当然だ。それぞれが武器を持て、魔術を唱えて、始まろうとする戦いに体が震える。
止めなくちゃ。止めなくちゃ。
けれど割って入る勇気もなくて、ただただどうしようと悩むばかりの私の隣で、どさりと何かが倒れる音がした。
慌てて視線をそちらに向ければ、コレットが倒れているのが見える。……そうだ。彼女の病気は、まだ治っていない。治療のためのアイテムがそろっただけだ。

「コレット!」

彼女を器にしたいと思っているミトスくんも、この状況はまずいと思ったのか。コレットに駆け寄るロイドに、追撃するような様子はない。
そして……無防備ともいえるその状況で、みんなもただ黙っているなんてことは、しなかった。

「今だ!」

ジーニアスのファイヤーボールがミトスくんに直撃する。この隙に早く、と、行動したかったのだろう。
けれど、そう何事もうまくいくわけじゃない。ちょうどワープ装置から姿を見せたプロネーマは、ジーニアスが術を当てるところを見たのだろう。彼女はすぐに怒りに表情を歪ませると、ジーニアスに向かって術を放った。

「ユグドラシルさま! ……この小僧! 同族とはいえ、許せぬ!」

そうして放たれた魔法は、けれどジーニアスには当たらなかった。
ジーニアスが俊敏に避けたとかではなくて……ジーニアスをかばうように突き飛ばしたミトスくんが、代わりに受けたから。
だから、彼は無傷だ。……理由はわかっても、意味は、すぐにわからないけれど。

「ど、どうして……」

どうして、ジーニアスを庇ったのだろう。
ジーニアスはもちろん、プロネーマも唖然とした様子で彼を見ている。
だって、彼がジーニアスを助ける理由はない。敵対しているのだから。今まさに、戦おうとしていたのだから。
それでも、一応同族だから? だから庇ったのだろうか。他に何か、見落としている理由があるのだろうか。
わからない、わからないけれど、誰かのために身を差し出す姿は、あの頃から変わっていなくて、わたしはまたぎゅうと胸元を握りしめた。

「ユグドラシルさま!」
「プロネーマ! 何用だ」
「……は。あの……例の件が、動き出しましたゆえ……」
「……わかった」

求めた言葉以外は許さぬとばかりの声色に、プロネーマはびくりと委縮すると、躊躇いながらも報告をする。
わたしたちにはわからないように語られたプロネーマの言葉にミトスくんはうなずくと、ひらりと羽を羽ばたかせた。

「覚えておけ。……すべてを救える道がいつもあるとは限らない」

一瞬だけ、眩しそうにわたしを見て、彼らは姿を消す。
追いかけることは、もちろん、できなかった。

「ロイド……お前の追いかける道は、幻想だ」