110-2

どうして見逃してもらえたのかはわからないけれど、今優先すべきはコレットの治療だ。意識を失ってしまった今、症状はかなり進行していると言っていい。
彼女を背負って、アルテスタさんの家に急いで向かって。そして、ルーンクレストの制作方法を覚えているリフィルさんと共に、彼らはコレットの治療を始める。
材料はそろえた。作り方も覚えている。あとはもう、ただ待つしかなかった。

「ひどい顔色だよ」

コレットの治療が終わるのを待っている間に、ミトスがそう声をかけてきてくれる。
心配そうにわたしを見る彼に、今はちょっと、変な気持ちだった。……彼にそっくりだなって思ったミトスくんが、今も生きているとか。さっき会って、一緒にいられないんだなって思い知ったとか。わたし、彼に請いをしていたんだなあとか。知らなかったことを知ってしまって、どう受け止めて、どう消化すればいいのかわからないくらい、なんか、いろいろ、あって。
ちょっと、そっくりな顔を見るのがつらくて、わたしはなんでもないよ、と目を伏せるようにして笑った。

「大丈夫。アルテスタさんが、ちゃんと治してくれるから」
「……うん。そうだよね」
「……違った?」

そっと、ミトスの手が頬に触れる。顔にかかっていた髪をどかすように撫でてきたミトスは、きっと、一緒に泣いてくれるって約束を叶えようとしてくれているのだろう。
その優しさにほっと息を吐いて。でも、全部話すには、やっぱりまだ、わたしが落ち着いていなくて。コレットのことだって、不安で。
だからわたしはとりあえず、今はコレットを優先しよう、と無理やりに笑った。

「……あとで聞いてくれると嬉しいな。今は大丈夫だよ。失恋しちゃっただけだから」
「え」
「それより、今はコレットだよ」

大丈夫かな、と治療が行われている部屋に視線を向けてしまったから、ミトスがどんな顔をしていたのかはわからない。
とにかく話題を切り替えれば、わたしがまだぐるぐるしていることを知っているみんなも、そうだね、と話に乗ってくれた。

「あたしたちにできるだけのことはしたさ」
「そうそう。ほらロイドくん、まずはメシでも食って落ち着けよ」
「こんな時に食えるか」
「そんなこと言うなよ〜ニンジン食う? ジャガイモは?」
「……本当にいらねえってば」

突っぱねるように返事をするロイドに、ゼロスくんが大げさにため息を吐いてみせる。
たぶん、彼なりにロイドを気遣って、意識していつも通りを演じようとしてくれているんだろうけれど……今のロイドに、その優しさを受け取る余裕はないらしい。

「おいおいおい。ジーニアスといいお前といい、どうしてそんなに暗くなってるんだよ。……まあ、ナギサちゃんの事情はわからないでもないがな」

ちらりとこちらを見たゼロスくんに、わたしは困った顔を返すしかできない。代わりに、今わたしにくっついているジーニアスに視線を移した。
救いの塔から出た後、ジーニアスはずっとわたしにくっついて、塞ぎ込んでいる。落ち込んでいるような、戸惑っているような。元気がないのはわかるけれど、その理由ははっきりしない。さりげなく探りを入れたロイドとゼロスくんいわく、コレットのことが心配で落ち込んでいるのとも違うらしいということしかわからなかった。
とりあえず、リフィルさんの代わりになればと思って好きにくっつかせていたのだけれど、ここまでずっと無言の様子からして、相当参っているらしい。

「そうだよ。どうしたのジーニアス」

それまで気にしつつも、ずっとわたしに引っ付いているせいで声をかけにくかったのだろうミトスも、これがチャンスだとばかりにジーニアスに声をかけた。
そうすれば、何故か彼は泣きそうな表情を浮かべてミトスを見る。何かを言いたそうに口を開いて、閉じて。それを数度繰り返してから、ジーニアスはやがて控えめに声を発した。

「……ミトス……あのね? あの……」

けれど、ジーニアスが何かを言い終わるより先に、ガチャリと扉の音がして、全員の視線がそちらへ移る。
扉を開けて、部屋から出てきたのはアルテスタさんとタバサちゃんだ。
コレットの治療は終わったのかと、思わず前のめりになれば、タバサちゃんがゆっくりと口を開く。

「治療は完了シまシた」
「コレットは!?」
「今は眠っておる。次に目覚めた時には、コレットの体は元通りだ。クルシスの輝石も、完全に要の紋によって管理されるだろう」

アルテスタさんの説明を聞いて、全員がほうっと安堵の息を吐いた。
脱力するようによかった、と繰り返して、そのまま座り込んで。これでもう、彼女が苦しむことはないのだと、これからも一緒に生きていけるのだと……そう安心して、嬉しくなって、じんわりと目が熱くなった。

「よーし! んじゃまーコレットちゃん全快のお祝いにメシにしようぜ」
「……さっきからメシメシうるせーなー」
「だってよ〜俺さまたち親友だろ? ロイドくんが疲れてるんじゃないかと思ってさ」

抱き着きながら茶化すゼロスくんに、今度はロイドもなんだそれ、と笑う。
笑う余裕が、彼にもできてきたらしい。気付けば彼だけでなく、他のみんなも安堵の笑みを浮かべていた。……ジーニアスだけは、まだぎこちなかったけれど。

「二人とも仲がいいね」
「そ〜でしょ〜」
「ジーニアスも疲れてるの?」

もう一度問いかけたミトスに、ジーニアスがぎゅ、とわたしの服を握りしめる。
それから、真剣な目で、彼をまっすぐに見つめた。

「……ボクたち、友達だよね、ミトス」
「……え? うん、何言ってるの?」
「本当に友達だよね」
「う、うん……」
「ボク、信じてるからね」

突然の問いに不思議そうにするミトスに、けれどジーニアスはそれだけを言うと、ボクも食べようっと、なんて笑顔を作って、たたっとテーブルへと駆けて行った。