111-2

「ロイド! どしたの! これはいったい……」
「レネゲードに……クラトスさん……?」

コレットと共に慌てて外に飛び出して、そこに広がっていた光景に足踏みをする。
そこにいたのはロイドだけではなかった。
彼を取り囲むように、いや、わたしたちがこれ以上前に飛び出せないように。武器を向けてくるレネゲードが数人。紫電を手のひらに散らすユアンがいて。
そして、その中心に、ロイドとクラトスさんがいた。

クラトスさんが倒れているのは、ユアンの手に残る電撃と関係があるのだろうか。
ロイドが取り乱しているのは、このことと関係があるのだろうか。ならばどうして。何が起きたの。いったい何が、あの子の心をあんなにもかき乱したの。

「俺は……俺は何を信じたらいいんだ!?」
「ロイド、しっかりして!」
「嘘だ! クラトスが……俺たちを裏切って、コレットを苦しめたあいつが……俺の、父さん……!?」

聞こえてきた悲痛な声に、思わず息を飲む。
それだけですぐに察してしまった。事情を知った。飲み込めた。彼らがここにいる理由も、ユアンがずっとロイドを追い回していた理由も、悟った。
……クラトスさんが、ロイドの本当のお父さんなのだ。
そして、おそらく。何らかの交渉をしようとしたユアンがロイドを傷付けようとして、それをクラトスさんが庇って、倒れているのだろう。

唐突な話だった。突然の展開だった。
けれど、納得して、すぐに飲み込めてしまうことだった。
だって、一緒に旅をしている時。二人の仲の良さを見て、親子みたいだなって思ったこととか。やたらとロイドを気にかけてくれることとか。わたしたちが見たクラトスさんの姿は、確かに、ロイドを大切にしていたから。

けれど、それは第三者から見た話。ロイドからすれば、信じがたいことなのは事実だ。
何よりこれまで、クラトスさんは何度もわたしたちの前に立ちふさがった。何度も戦った。そんな相手が本当のお父さんですなんて急に言われても、信じられないだろう。
彼に駆け寄れないなら、せめて何か声をかけなければ。そう思って行動するのは、わたしよりコレットの方が早かった。

「ロイド、自分を見失わないで! 誰の血を引いていても、どんな生まれだったとしても、あなたはあなたでしょ!」
「俺は……俺……?」
「どんな姿になっても、天使になっても、私は私だって言ってくれたのは、ロイドだよ!」

一生懸命に声を張り上げるコレットを、ロイドが見る。
その顔はいつもと違ってとても悲しそうで、泣きそうで。一緒に暮らしていた時でも、こんな顔を見なかったなって思って。わたしは、彼に笑ってほしい一心で声をかけた。

「そうだよ、ロイド。……ロイド、ちゃんと顔を上げて。君は、相手が何者であっても変わらなかった。それと同じだよ。父親が誰であろうと、君はわたしたちと一緒に過ごした……弟みたいに可愛い、ロイドだよ」
「……ナギサ姉さん……」
「……それにクラトスさん、ロイドを助けてくれたんだよ」

コレットがクラトスさんに視線を向ければ、彼も同じように視線を落とす。
自分の、お父さん。ずっとロイドを助けてくれた人。
きっと彼も、思い当たる節がたくさんあるのだろう。どうしても嫌いになれないと言っていたロイドを思い出す。あいつの目が俺の嫌ってない気がするから、と言って、敵なのに憎めないと言っていたことを思い出す。
なんとなく感じていた視線の意味を、理解したのだろう。彼は落ち着きを取り戻すと、クラトスさんの隣に座り込んで、ありがとう、と伝えてから、ゆっくりと首を振った。

「でもやっぱり俺は、あんたを父さんとは呼べない」
「ロイド……」
「あんたの……クルシスのやり方は嫌なんだ」

ロイドが、ぎゅ、とこぶしを握る。
クラトスさんは意識があるのかないのか。決して返事をしないけれど、それでもロイドは言葉をつづけた。

「今までたくさんの人が死んだ。シルヴァラントやテセアラの人も、レネゲードや……クルシスやディザイアンも。みんな、犠牲になった人たちだ」

……それは、何もクルシスのやり方だけが悪いわけじゃない。
最初から、世界はとても冷たかった。それでもと頑張ってきたミトスくんが最後には全部捨ててしまうくらい、冷たい世界が最初にあった。

「でも、目的のためには犠牲が出てもいいなんて思えないよ。死んでいい命なんてない。死ぬために生まれる命なんて、あっちゃいけないんだ」

でも、だからって、世界にもっと冷たくしていいわけじゃない。どうせ犠牲が生まれるならと、目の前の叫びを無視して、新しく誰かを犠牲にしていいわけじゃない。
敵も味方も。好きな人も嫌いな人も。みんな犠牲になってはいけない。傷つけあっても、また仲直り出来るような。お互いが存在することを許しあえるような世界がほしい。そのために、自分たちも、世界も変わらなければいけない。

ロイドの言うことは欲張りで、あまりにも理想論で。とても実現できないようなことだけれど。それでも、彼なら少しずつでも変えてくれるって、信じられるような力強さがあった。わたしも変わりたいって、変われるかなって、そう思わせてくれるような光があった。
そしてきっと……それが、マーテルさんが見たかった、誰も差別されることのない世界なんだと、思った。

「俺はコレットを助けるために、世界を見殺しにはしない。最後の最後まで、みんなが生きる道を探したい」

ロイドの言葉を遮るように、カチャリと、扉が開く音がする。

「素晴らしくクサい演説だね。ご苦労様」

聞こえてきた声が発した言葉に、わたしはえ、と声を零した。