「ミトス……?」
一人、扉を開けて出てきたのはミトスだ。
ここは危ないよ、とか、さっきの嘲笑するような言葉を言ったのは彼なのかとか。言いたいことは確かにあったはずだけれど、そのどれもが言葉になる前に、彼はさっさと歩きだしてしまう。
当然、レネゲードたちが彼の動きを止めようと武器を向けるけれど、ミトスはそれを怯えるでもなく、ただ無表情に見た後、煩わしそうに手を振るう。それだけで、彼の手から光弾が放たれて、あっさりと周りを囲んでいた彼らを吹き飛ばし、昏倒させた。
どうして。
こんなに強い魔術、使えたっけ。
どうして。
そんなに退屈そうに、彼らを攻撃するの。
目の前の事態が呑み込めないまま、ただ彼の動きを視線で追いかけていれば、やがて彼はユアンへと近づく。驚愕に目を見開いていたユアンは、じりじりと後退するけれど逃げられない。
ミトスが放った魔法に直撃して、地面に吹き飛んだユアンを眺めながら、ミトスは、とても静かにほほ笑んだ。
「ボクが気付いてないとでも思った? 残念だったね。クラトスにはプロネーマを監視につけてたんだ。ロイドたちに情報を流していたみたいだからね」
どうして。
どうして、その名前を君が知っているの。
監視ってなに。情報を流してたって、なに。
どうして。
どうして、なんで。
「くそ……っ! ユグドラシル! お前がどうしてここに……」
「……え」
「な、なに……っ!?」
今、この場で聞きたくなかった名前を聞いて、わたしは言葉を失う。頭が真っ白になるような、急に何も考えられなくなるような、そんな衝撃が静かに直撃して、わたしはまったく動けなくなってしまった。
……だって。どうして。なんで、その名前を、彼に向かって呼ぶのだろう。
ミトスは、オゼットで出会った、ただのハーフエルフの男の子のはずなのに。
わたしのミトスくんにそっくりだけど、わたしのことを知らない、わたしのミトスくんとは別に生きる、ただのミトスのはずなのに。
どうして、クラトスさんをプロネーマに監視をさせていた、とか。そんな話をして。
どうして、レネゲードたちに攻撃をして。
どうして、自分をユグドラシルだなんて呼んだユアンを、静かに見つめているのだろう。
「なかなか面白い趣向だったよ。ボクの邪魔ばかりする薄汚いレネゲードが、お前だなんてさ」
一瞬浮かべた笑顔が、泣きそうに見えたのはわたしの勘違いだろうか。
彼は倒れ伏したまま起き上がれないユアンのお腹を何度も蹴り上げる。その様子は、とても普段見ていたミトスのものではない。
……ううん。わたしの知ってるミトスくんのものでも、ない。
「本当なら殺すところだけど、姉さまに免じて、命だけは助けてあげるよ」
そう言って笑いながら何度も蹴りつける彼に、どうすればいいのかわからない。
「や、やめろ!」
「……ミトス? ど、どうして……」
ただただ、言葉を失って。けれど、何かを否定したくて。そんなことないって、よくわからないけれど言ってほしくなって。わたしがふらりと近付こうとしたところで、後ろで再び扉が開く音がする。
扉の方を見た彼は、けれど、わたしとは視線を合わせてくれなどしなかった。