「ボク、ロイドやイセリアのみんなや、一緒に旅をしているみんなのことは好きだよ」
この人数では夕飯の支度をするのも大変だろうから、とダイクさんを手伝おうとリーガルさんが申し出てくれたけれど、体の大きな彼はちょっとこの台所に招くには窮屈だ。だからありがたいけれど、と断れば、ちょっと落ち込んだ様子の彼に少し良心を痛めつつ。
何度もお手伝いしたから慣れてるよ、と代わりに名乗り出たジーニアスと三人でじゃがいもの皮を剥いていると、ふと、彼がそう呟いた。
彼の視線はじゃがいもに注がれたままだ。わたしとダイクさんはちらりと目を合わせた後、特に踏み込むことはせず、そっか、と続きを促した。
「でも、村長みたいな人はきっとたくさんいるんだろうなって思うと……また人間のこと、嫌いになりそうだなって。理解しようとしてくれない人には、どうしたらいいんだろうって」
「無理して理解してもらう必要はねえ……なんてことは、口では言えても心はついていかねえからな」
「ダイクおじさんも同じようなこと、思った?」
「そりゃあ何度も思ったさ。つっても、俺はすぐに忘れて、作業に集中するから、あまり悩まなかったがな」
ドワーフは、確かに人間とは違う種族であるけれど、エルフやハーフエルフのように人間との間に溝はない。
それでも、やっぱり思うところは今までもあったのだろう。年を取ればいろいろと経験もするもんさ、と笑う彼に、懐が広すぎるなあとジーニアスは苦笑して、でもいいな、と頬を緩めた。
「……さっき、ロイドにこのこと話したんだ。ボク、ちょっとあたっちゃってさ……そしたらロイド、なんて言ったと思う?」
「……あたればいいよ、とか?」
「すごい。さすがナギサ、ロイドのこと、わかってるね」
彼なら多少八つ当たりをされたくらいじゃ動じないだろう、と思って言ってみたけれどその通りだったらしい。
八つ当たりして謝った相手にすぐそういう切り返しができるからすごいよね、と野菜に包丁を入れていく彼の横で鍋を用意して、少し嬉しそうに話を聞いているダイクさんのことを軽く腕で突いた。
「ボクとロイドは親友だって。あたりすぎたらロイドだって怒るけど、そしたら喧嘩して、一緒に悩んで、一緒に考えようって。……うれしかった。みんながロイドみたいだったら、ハーフエルフはディザイアンや天使にはならなかったんだろうなって思ったよ」
ハーフエルフであるとか、子供であるとか、そんな属性に捕らわれず、ボクをボク個人として見てくれる誰かがいるんだもん。別の何かに変わろうとする必要がないもの、と笑うジーニアスの横顔は、少しだけ寂しそうだ。
彼だからわかることが、たくさんあるのだろう。それは、わたしにはきっと、わからないことだ。下手に薄い言葉を投げてしまうくらいならと、ジーニアスが切り終えた野菜を順番に鍋に入れながら、わたしは喧嘩するほど仲がいいっていうもんね、とだけ答えて、話の続きに耳を傾ける。
「ボクと本気で喧嘩してくれるの、きっとロイドだけだろうな。ミトスのことも大好きだけど……ミトスとは喧嘩したくないもん。それに、ミトスも喧嘩はしてくれないと思う。だからロイドが死ぬまでは、一緒にいたいって、思うよ。……ううん。きっと、千年たっても、忘れないよ」
ハーフエルフは、おおよそ千年の時を生きるという。
エルフよりは、短い寿命。人間よりは、長い寿命。自分たちと同じ血が流れているのに、時間は同じように流れない。きっとそれが、彼らを遠ざけてしまう理由の一つなのだろう。同じ時間を共有できないのは、寂しいから。
でもせめてロイドの身長は抜かしたいなあ、と言って、ダイクさんにじゃあ牛乳追加するか、なんて言われている姿を眺めていると、ふと、ジーニアスはくるりとこちらに振り返った。
「きっと、ナギサのミトスくんと、マーテルさんも。勇者になっても、女神になっても……ずっと、忘れなかったと思うよ」
今回は失敗したけれど、これからも大樹の発芽を視野に入れるなら、またきっと会える機会があると思うよ、と元気づけるようにわたしを見上げる彼に、わたしも少しだけ肩の力を抜いてみる。
……あそこにいたマーテルは、間違いなく、わたしのマーテルさんだった。
もうとっくの昔に死んでいるはずの彼女。どうして大いなる実りの力で生き長らえているのかはわからない。その理由も動機も関係性も、何も。
わからないけど……わたしは、この後。彼女に会えることは、あるのだろうか。会えた時、彼女は、わたしのこと。
「……今もまだ、わたしのこと、覚えてくれているかな」
「もちろんだよ。……ううん、忘れたくないって、思っていると思う」
なんとなくだけどさ、とちょっと照れくさそうに頬をかくジーニアスの気遣いが素直に嬉しくて、わたしはくしゃくしゃとその頭を撫でた。