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ミトスが……ミトスくんたちがいなくなった後、立ちふさがった天使たちを倒したわたしたちは、とにかくアルテスタさんの治療を急いだ。
けれど、エクスフィアを使っていない彼にとって、治癒術は応急処置にしかならない。けれど医学の知識があるわけでもないわたしたちに、これ以上のことはできない。だからなるべく急いで腕のいい医者を呼びに行かなければと飛び出したわたしたちがやってきたのはフラノールだ。
しいなの知っている医者に助けを求めて、それなりにお高い金額と護衛を用意して、アルテスタさんのところへ向かってもらう。護衛として選ばれたのはゼロスくん、プレセアちゃん、リーガルさんの三人だ。その際、レアバードを貸してしまったから、わたしたちはここに残ることになった。

そしてロイドとわたし、リフィルさんとジーニアス、コレットとしいなで部屋を取ったけれど……わたしは今、ジーニアスの部屋で彼と二人、窓の外をぼんやりと眺めている。
この部屋にわざわざ来る必要はなかったのだけれど、リフィルさんに彼の傍にいてほしい、とお願いされたので、彼女が部屋を空けている間だけ、ジーニアスの隣にいることにした。
ジーニアスが静かに窓の外を見ている理由は、わかる。……ジーニアスにとっても、大切な友達だったと、わかっているから。

「……ユアン、ちゃんとレネゲードたちを撤退させてあげること、できたのかな」
「うん……すぐに行動したみたいだし……大丈夫じゃないかな」

あの場にいたユアンは、ユグドラシルに処刑されるより先に、忍び込ませたレネゲードたちを撤退させないといけないからと、怪我の治療もおざなりに自分の基地へと戻って行った。
その際に、エターナルソードについての情報とか、いろいろと教えてくれたけれど……正直、ちゃんと覚えているかと問われると自信がない。
信じられないけれど、本当のことだって、暴力的なまでに叩きつけられたミトスがミトスくんだったという事実を飲み込むことだけでせいいっぱいで。今も、ちょっと、ふわふわするくらい、衝撃的だったから。

「ユアンは……仲間だったのに。千年王国には共感しなかったんだよね」

その名前を避けて語るジーニアスの声はとても沈んでいるけれど、泣いてはいない。きっと彼もわたしと同じで、びっくりしすぎて泣けもしないのだろう。
……ユアンは、その計画はマーテルさんの遺言をゆがめて捉えたものであると言って、ミトスくんに賛同しなかった。勇者ミトスと、クラトスさんとマーテルさんと旅をしていた仲間だったけれど、それをすべて肯定することはなかった。マーテルさんに本当の眠りを与えようと、一人謀反を計画立てるくらいに、彼の心は離れているのだ。
……救いの塔でユグドラシルとしてわたしと会ってくれた時。裏切らないでってミトスくんが言ったのは、そのことに気付いていたから、なのだろうか。ユアンもクラトスさんも、すでに自分ではない人を選んでいると、知っていたからだろうか。
それなら……彼は今、ひとり、なのだろうか。

「……ジーニアスは……」

問いかけたいことがあって名前を呼べば、ジーニアスはゆっくりとこちらを見上げてくれる。
なんとなく、気まずくなって。けれど聞かないと話が始まらないと、必死に勇気を振り絞るように、問いかけた。

「ジーニアスは、どうして……いつ、ミトスのこと、気付いたの?」

やけに落ち着いているな、と思ったのだ。わたしほど衝撃を受けて呆然とするほどまではいかなくても、どうして、どういうこと、と彼も戸惑うと思ったのだ。
けれど、彼は動じなかった。みんながミトスの正体を知って動揺する中、一人だけ悲しそうに「やっぱり」と言っただけだった。
だから、彼は事前に、そうかもしれない、と思うことがあったわけだけれど……それがいつ、どのタイミングで、どうやって気付いたのかがわからなくて、問いかける。そうすれば、ジーニアスは悲しそうにしながら、懐から何かを取り出した。

「……ユグドラシルがかばってくれた時、これが、落ちたんだ」
「それは……」
「うん。ボクたちが渡した笛」

彼が見せてくれたのは、見覚えのある笛だ。リンカの実で作られた笛。……ジーニアスたちが助けてくれたお礼にって、ミトスに渡したもの。
それは、ミトスだけが持っているはずのものだ。リンカの木はほぼ絶滅してしまっている。小さな木の実を偶然手に入れることはあるかもしれないけれど、この大きさの笛に加工されているものが、そういくつも存在するはずがない。
だからこれは、ミトスのものであると。敏い彼は、すぐに察してしまった。

「……それで、もしかしてって、思ったんだ。でも、信じたくなかった。ボクの優しい友達が……ユグドラシルであるはずがないって」

だからみんなに言えなかったんだ、とうつむくジーニアスの肩を引き寄せる。
どちらも泣いたりしなかったし、強く抱きしめ合うようなこともしなかったけれど。ただ、ただ、同じ人を思って、信じられないよね、と目を伏せた。

「そっか……元気なかったのも、そういう……ごめんね」
「なんで謝るの?」
「わたし、なんにも気付けなかったから」
「そんなの……ボクも同じだよ」

あんなに大好きな友達のことなのに、何もわかってあげられないんだ。彼の味方に、なってあげられない。
大事なのに選べないなんて苦しいね、と笛を抱きしめる彼の背中を、わたしはただ、黙って撫でることしかできなかった。