「……正直に言うと、不安だったの。ユグドラシルとミトスの関係を知った時。あなたは……もしかしたら、彼のところへ行ってしまうかもしれないって。あの救いの塔で……もう、私たちのところへ戻ってきてくれないかもしれないって」
ぽつぽつと話してくれるリフィルさんの言葉に、わたしもそっと目を伏せる。
それは……ちょっとだけ、一瞬だけ、考えたことがある。すぐに、でも彼のやり方には賛成できないからと否定したけれど。叶うのなら、また会えるのなら。彼の近くにいたいって、思わなかったなんて言ったら嘘だ。
彼が過ごした四千年の長い時間。あまりにも途方の無い時間で、想像するのも一苦労なくらい、長い長い時間。その間のことを、聞きたかった。かつての仲間のことも、この道を選んだ理由のことも、もっと知りたかった。
それこそ、リフィルさんの言う通り。彼の周りの世界の温度を、少しでもいいから知りたかった。
「……ミトスくんと再会した時。わたし、会えてうれしいって、それしか考えられませんでした。また会えたんだ、嬉しい……聞きたかったいろんなことも忘れて。一緒にいたいって、わたし、思ったんです」
本当は、すぐに怒らないといけなかったのかもしれない。
どうしてこんなことしたの、本当にマーテルさんが願ったの。こんなやり方じゃダメだよ、他の方法を考えよう、一緒にいるよ。
そんな言葉でも言えたらよかったのかもしれない。
でも、ミトスくんに会ったら、全部吹き飛んじゃって。会えて嬉しいって、そればかりになっちゃって。あの時、彼と再会したあの数分。わたし、みんなのことも世界のことも全部忘れてしまっていた。
だから、リフィルさんが不安に思った通り。
これまでの長い旅がなかったら……実際に今ある世界を旅しなかったら。みんなと一緒に旅をして、みんなのことも大好きになっていなかったら。
わたしは、彼のところに駆けつけしまっていたかも、とは、思う。
そう思ってしまうくらいに、わたし、ミトスくんと一緒にいたいって、あの時のわたしはそれしか考えられなかった。そのくせ、ミトスくんはミトスで、ユグドラシルで、という事実すら、今も上手に飲み込めていないのだけれど。
「頭では、ちゃんとわかってるんです。わかってるんですよ。わたしはミトスくんを選べないし、ミトスくんもわたしを選んでくれない。でも……でも、そうだよねって、上手に納得できなくて。何か、ずっと、ぐるぐるしてしまって」
わたしの前にある道は、もうミトスくんと戦うか、戦わないかのどちらかだ。
気持ちとしては後者を選びたい。もう後はみんなに任せて、一人で逃げ出してしまいたい。でもそれは、これまで一緒に旅をして、いろんなことを悩んで、頑張ってきたみんなに対してものすごく不誠実だ。
リフィルさん一人に対してもそう。あんなにいろんなことを相談に乗ってもらって、怪我を治してもらって、いろんなことを楽しんで、笑って、とても大切な仲間になったこの人たちに全部押し付けるのは違うと思う。
でも、戦いたくなくて……でも本当に、このまま逃げるわけにもいかなくて。戦うための勇気が、なくて。
どうしたらいいのか、もうずっとわからない。
「いいのよ。……悩みなさい、たくさん」
リフィルさんはそう言って、わたしの頭を抱き寄せてくれる。
あたたかい、優しい温度。相変わらず、まだ涙は出ないけれど。
ほっと、心の内側が解れるような気がした。
「悩むことは必要だわ。人は、誰もが簡単に、目の前の道を選べるわけじゃない。悩んで、悩んで……そうして、決めていくものよ。自分が歩きたい道を。選ぶ道を。だから、たくさん考えてあげて。あの子は……きっと。今も、あなたのことが、大好きだって、見ていて思ったもの」