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「おかえり、ナギサ」

しばらく寄り添ってもらった後、いつまでも廊下にいるものじゃないねと笑って、その場を分かれる。
そうしてわたしとロイドの部屋まで来たところで、わたしはまた足を止めた。扉の前にもたれて、誰かを待つようにそこにいるしいなを見つけたからである。
ひらりと手を小さく振った彼女に近付けば、彼女はどこか照れくさそうに頬をかいた。

「戻ってきたところで、あれなんだけどさ。……外に行かないか? 雪が降ってて、綺麗なんだよ」

さっきロイドとコレットも一緒に雪を見に行った、と語る彼女の申し出を断る理由は思いつかない。
だからしいなに連れられるままに外に出れば、部屋の中で見るよりもずっと静かに、街頭によってきらきらときらめくように、しんしんと雪が降り積もっていた。

「ああ、寒いねえ」
「本当。でも、綺麗だね」

冷たい。寒い。でも、不思議と凍えるほどじゃない。元の世界で経験した雪は、もっと寒かった気がするけれど、何か違うんだろうか。それとも、今雪を見ているのが、わたし一人ではないからだろうか。なんて。
もうみんな寝静まっているのか、静かな道をさくりさくりと歩きながらしばらく無言で歩いていると、ふと、しいながそっと問いかけてきた。

「みんなが無機生命体になったら……本当に差別はなくなると思うかい?」
「……無理だと思うよ。だって、人間同士でだって、溝や差別はあるもの」
「あたしもそう思う。テセアラでは、ミズホの民とそれ以外の人間は、お互い深い溝があった。ミズホの中でも、あたしは……浮いていたしね」

同じ種族の中でも、どうしたって差別は生まれる。
人は、自分と相手の違うところを見つけるのがすごく上手なのだ。
性別に肌の色、生まれた場所、貧富の差、上手にできることとできないこと。そうした違いを見つけては、自分とは違うと決めつける。
もちろん、区別をつけることが必要なこともあるけれど……それでも、みんながまったく同じになるなんてことは、ないと思う。

「あたしもさ……はるか昔の先祖には、たぶん、エルフがいたんだと思う。精霊との契約には、エルフの血が必要なんだ。だから、あたしがコリンと契約した瞬間、周囲の目が変わったんだ。ハーフエルフの連中は、いつもこういう視線を浴びているんだなって思った」

ほとんど人間なのに、エルフの血が確かに混じっている。それだけでも、周囲の目が変わる。純粋に居心地の悪い視線だったと苦笑する彼女は、けれど次の瞬間には、力強く笑っていた。

「でも、この力があったから、あたしはコリンに出会えた。あんたたちにも出会えた。そう思うと、人にはいらないものは何一つないんだなあって、思うんだよ。みんな必要だからそこにいる。必要だから、生きてるんだって。生きているだけでいいんだって……ロイドが当たり前の顔して、こんな当たり前のことを言うから、あたしまでそう思うようになっちまった」

だからあたしも、あんたも、他の誰もかれも。生きていていいに決まってるのさ。
そう笑って振り返る彼女は、とても綺麗だった。とても強くて、まっすぐな目で、わたしを見ていて。あ、と。わたしの好きな目だ、と思った。

「だから、あんたとあたしが出会えたことも。あんたとミトスが出会ったことも。……絶対に、意味があるものだったって、思うよ」

───二人に出会うために、この世界に来たのかも

そう話をしたことなんて、彼女は知らないはずなのに。あの日、二人に言ったことを肯定するような言葉をくれるから。わたしはちょっとだけ、胸が熱くなって、立ち止まって。それから、ぎゅ、っと、胸元を握りしめた。