「そうだったらいいな。わたし……二人と会えて、嬉しかったから」
「嬉しいって思った時点で、もう十分意味があったさ。ミトスにもさ、それが伝わるといいのにな。一生懸命生きていれば、同じように一生懸命生きてる人と、そうやって一緒に……だから……その……ああ、もう!」
それまでしんみりと笑いかけてくれていたのに。急に髪をかき乱したかと思うと、やっぱり慣れない、なんて言って、赤くなった顔でわたしを見る。
照れているような、困っているような。そんな顔をしながら、ほら、と両手を広げた。
「あたし、あんまり慰めるのとか、得意じゃないんだよ。でも……あんた、いつも、いろいろと声、かけてくれただろ。だから、あたしだって、あんたのことを支えたいって思うんだよ。なんでも言いな!」
……つまり、まあ、わかっていたけれど。彼女はわたしのことを慰めようとしてくれているのだ。
ただ、上手な言葉とか思いつかなくて、もう力尽くで行こう、と開き直ったみたいだけど。わたしもそういうの苦手だから、ちょっと乱暴でも聞き出したい気持ちはわかるけど、さっきまでの空気がとてもよかったので、なんかちょっと脱力してしまった。
「……もう。しいなってば、どうしてそこでそんな変な開き直り方するのさ」
「仕方ないだろ。こういうのは、いつも通りの方がいいだろ。……少なくとも、あたしは、その方がよかったよ。あいつのやり方だから、かなり癪だけどね」
たぶん、思い浮かべているのはゼロスくんだろう。彼は何かあった時でも、常に普段通り振る舞うことを意識しているようだった。腫れ物扱いされるより、普段通りにした方が相手の負担にならないと、たぶん考えているんだと思う。
その方が気兼ねなくて楽だったから、と彼女はちょっと気まずそうに言うので。わたしは、みんな優しいなあって、改めて思って。しいなに近付いてその両手に自分のそれを絡めると、あのね、と口を開いた。
「わたし、しいなのこと、憧れてるんだ。しいなって結構ドジだしうっかりだし臆病だし……」
「あんたねえ」
「でも、そういうの全部押し込んで、強きに笑って見せるでしょ。負けるもんかって立ち上がって、こぶしにぎって。そして、背中をひっ叩きながら笑ってくれるじゃない。だから、憧れてる」
彼女の指を握りながら、わたしはそう語り出す。
いつもありがとうね、となるべく笑って。好きだよって、言いたくて。
「コリンちゃんとのずっと一緒だって約束も、二人はずっと体現してるでしょ? 離れても、ずっと心が一緒にあって……わたしもそうだったらいいなって思ったの。わたしも、ミトスくんとマーテルさんと、今も心はずっと一緒にいられたらなあって。ううん、そうやって、残す人になりたかったなって」
わたしがミトスくんとマーテルさんより先に死んでしまうことなんて、もう最初からわかってた。ハーフエルフは寿命が長いと聞いてから、じゃあわたし一人だけ年を取って、二人にお世話してもらうことになっちゃうかもしれないなあなんて思った。
だからこそ、置いて行ってしまうからこそ。彼らの中に何かを残したくて、彼らに何かをしてあげたくて、いっぱい、いろんな約束をして、お守りを残そうとしていた。
それが、うまく行ったかわからない。少なくとも、わたしにとって二人との思い出や約束は大事なお守りになって、旅の間もずっとわたしを支えていてくれたけれど。心がずっと一緒だったかは、わからない。
だから、コリンと今も繋がっている、一緒に頑張っている彼女が、とても理想で。こんな風になりたかったなあ、なんて、思ったりしたのだ。
「……それに、今、こうして一緒にいてくれる」
わたしは、この世界の人間じゃない。帰る方法はわからないけれど、このままこの世界にいるのか、いつか元の世界に帰るのかもわからない。
だから、わたしにとって、この世界はいつまでも他人だけれど。
でも、いつだって、一人じゃなかった。
いつだって、誰かがそばにいて、頑張れって背中を押してくれて、一人じゃないよって手を差し伸べてくれて。だからわたし、
さっきもそう。ジーニアスもリフィルさんも、いつもわたしと話をして、いつもいろんなことを共有して、立ち止まりそうな時は寄り添ってくれる。
ううん、彼らだけじゃない。こうやってしいなみたいに、改めて顔を合わせてってことは、あんまりしないけど。当たり前に一緒にいてくれるのだ。当たり前に、わたしをみんなの輪の中に入れてくれるから。
だから、一人だって、思ったことはない。
だから……だから。だからこそ。ミトスくんがマーテルさんを復活させたいと思う気持ちを否定できない。寂しいって、誰かに一緒にいてほしいって、思うのは、当然のことだから。
そりゃあ、たまには一人になりたいときとかあるし、一人の方が好きな人だってたくさんいるだろうけれど。ミトスくんは、昔から寂しがり屋さんだったから。ミトスとして接していた時も、寂しがりなところは隠せてなかったもの。誰かと一緒にいたいって、大好きな人と一緒にいたいって思うのは、きっと当たり前のことだと思う。
「……ミトスくんがマーテルさんを復活させたい気持ち、わかるんだよ。納得する。きっとわたしもあの時一緒にいたら、彼と同じ場所にいたと思う。でも……今のわたしは、それを選べないから。彼の隣にいる選択肢を、とっくの昔になくしてるから……かなしいよ。わたし……ミトスくんのこと、好きだったから……」
「……ナギサ」
そう。悲しい。悲しいのだ。
大好きなのに、一緒にいられないこと。彼の味方になってあげられないこと。とても悲しい。でも、わたし、みんなのことも好きだから。だから、何もかもが宙ぶらりんになってしまったような、途方に暮れた気持ちのまま、ずっとふわふわしている。
しいなはしばらく無言でわたしの言葉を聞いてくれた後、ぎゅ、と手を握り返してきた。
「あたしたちは、ミトスと決着をつけないといけない」
「……うん」
「そして、世界を一つに戻すんだ。これまで、ずっとそのために走ってきたから。そのために、多くのものを犠牲にして、あたしたちも走ってきたから」
「うん……」
「でも……でも、だからって、あんたが諦める必要はないよ」
その言葉にぱっと顔を上げると、しいなと目が合う。
まっすぐにわたしを見る彼女は、とても優しい顔をしていた。
「世界はミトスを許さないかもしれない。あたしも、いくらあんたの大切な人だって言われても、あいつがしてきたことを許すつもりはないよ。必ず落とし前はつけてもらわないと困るし、決着はつけないといけないと思ってる。……それでも、あんたが一緒にいたいって思うなら。その方法を探すことを、誰も止めやしないよ」
本当に、一緒にいたいって、言ってもいいの。
そう問いかけようとして、でもやめた。きっと、いいに決まってるさって、彼女は言うから。どれだけ許せなくても、願うことをやめる必要はないって、言ってくれるに決まっているから。
「……ありがとう」
だから、それだけを答える。その言葉も本当だから。本当に……今、一人でなくてよかったって、思うから。
わたしはまだ、何も答えを見つけられていないけれど……確かに、寂しくはなかったから。
だから余計に、ミトスくんのことが、わたし。……わたし。