ミトスと戦いたくない。
実際、救いの塔でも戦えなかった。何度も何度も口にして、何度も何度もみんなにそう思ってもいいんだよって気を使わせてしまうくらい、戦いたくない気持ちでいっぱいだった。
でもこれは、彼の友達であるジーニアスだって同じ気持ちだろう。戦いたくないって、絶対に思ってる。でも彼はきっと戦うのだ。味方にはなれないけれど、友達だから、そのまま放っておいたりしない。それなのにわたし一人が駄々をこねるなんて、してはいけない。
わたしは、わたしも……そうしなくちゃいけないって、わかっているけれど。できないよ。ずっとずっと、自分の世界から飛び出してしまってから二年間、ずっと。大好きだった人と、戦いたくなんてない。
「でも、わたし、正しいなんて言ってあげられな、いから、だから……君の隣には、いられなくて、……っごめん、ごめんね……わたし約束したのに。たくさんたくさん、約束したのにぃ……っ」
ひどい。ひどいな。ひどいよね、わたし。
今すっごく我儘なの。ミトスのやっていることはやめてほしい。世界を一つに戻したい。そのために頑張ってきたことに報いるために、そのために選んできたことの責任をとるために、立ち止まることはしたくない。でも、ミトスくんと戦いたくない。
こんな我儘でどっちつかずのわたしを、きっとみんなは許してくれるだろう。でもわたしは許せない。それは、わたしが今まで選んできたことを裏切ってしまうみたいで、許せない。
そっと、腕がわたしの背中に回る。
ミトスだ。ミトスくんの腕。わたしよりまだ小さい腕がわたしの背中に回って、そっと抱きしめてくれる。
「ボクのことを否定するのは、わかってるよ。怪我をしたときも同じことを言ったもんね。……もしかしたら、なんて、思わなかったよ。昔から臆病なくせに、結構頑固だからね」
その言葉に、あ、と思う。
以前、ミトスを飛龍の攻撃から守ろうとして怪我をしたとき。パルマコスタで休んでいる時に、確かにミトスは天使について聞いてきたことを覚えている。
本当に天使さまは悪いのって。もしかしたら他に理由があるのかもって。あの時のわたしは、それでもクルシスのやり方には賛同できないよと言った。目的が良いものであっても、この手段はよくないって、正しいと言ってあげられないって、言った。
あの時、そう答えたから。今、ミトスくんはわたしを選んでくれないのだろうか。わたしの知らないうちに、わたしが彼の四千年を否定したから。拒否したから。だから彼は、彼として再会したときも、今も、ずっと。わたしを抱きしめてくれるくせに、しっかりと引いた線を越えようとはしないのだろうか。
「だから……ボクと戦いたくないって、思ってくれるだけでいいよ」
とん、とん、と背中を叩いてくる彼は、まるでわたしをあやしているみたいだ。
我儘言わないでって、優しく諭して。そっと拒絶して、さよならを言っているみたい。
「ボクはね。姉さまとナギサがいればそれでいいんだ。本当だよ。あの頃からずっと。ボクは二人がいてくれればそれでいい」
わたしと、ミトスくんと、マーテルさん。
三人が一緒なら、どこにでも行ける気がした。
村から追放されても、三人だけになってしまっても。世界が決して、わたしたちに優しくなくても。苦しくても、つらくても。
三人で一緒にいられるなら、世界はいつもより優しくなるし、素敵な笑顔を浮かべていられると思った。
「ユアンもクラトスもボクを裏切る。みんないなくなる……だから、ナギサ」
ぎゅう、と。抱きしめてくる力が強くなる。
それは、本当にささやかな願いだった。
ささやかなのに、わたしが守れなかった願いだった。
「いなく、ならないで」
寂しいと、言外に囁く声は、昔に聞いた彼の寂しそうな声そのままで。
ああ、変わらないんだな。彼は相変わらず、寂しがりやな子なんだなって、思って、またぼろりと涙が落ちた。