「ごめんね。でもボクは、もう選んだんだよ。……姉さまを絶対に生き返らせるって。姉さまを助けて、三人で夢見たような世界で幸せになってほしいって」
ぼろりぼろりと涙をこぼすわたしの背中をさすりながら、彼は優しい声でそうささやく。
「約束、だからね」
約束。わたしたちは、たくさんの約束をした。
困っていたら必ず助けてあげる。
ずっと一緒に、いよう。
きっと世界を、誰も差別されないような世界に変えよう。
ほとんど叶えられなかった約束だけれど、それでもたくさん約束をして、お守りみたいに握りしめていた。
「わたし、は」
わたしは。
そのほとんどが叶えられなかったとしても、叶えられる約束は果たしたかった。
「もう誰との約束も破りたくなくて」
コレットを守りたい。
大好きな人を死なせたくない。
ううん、誰も死なせたくない。
自分で決めて歩きたい。
みんなと世界を救う。
「ミトスくんを、失いたくなくて」
ミトスくんと一緒にいたい。
ミトスが困った時は一緒にいたい。
ミトスくんとマーテルさんを支えたい。
「でも、ロイドたちも、大切で」
旅をしてきた。
いっぱい、いっぱい、旅をしてきた。
いろんなことを知って、いろんなことを経験して、悔しかったり、怖かったり、嬉しかったりして。大好きだなって、大切だなって思うものが増えて。自分が選んできたこの道に責任を取らなきゃって、頑張りたいって、思って。
「どれかひとつなんて、選びたく、なくて」
諦めないでねって、ジーニアスが寄り添ってくれた。
いっぱい悩んでいいって、リフィルさんが抱き寄せてくれた
一緒にいたいって言っていいって、しいなが言ってくれた。
ロイドも、コレットも、ゼロスくんも、プレセアちゃんも、リーガルさんも。
わたしを一人にしないでくれたみんなのことだって、わたしはあきらめたくない。
「……変わらないなあ、ナギサは」
彼が苦笑する気配と共に、するりと腕が離れていく。
ああ、まって、離れないで。まだ、言えていないよ。わたし、今、ぐちゃぐちゃに悩んでることしか伝えらえてない。君と戦うのがつらいって、それしか言えてない。
まって、お願い。わたし、みんなと一緒にいたいの。みんなだよ。みんな。みんなと一緒がいい。
「ごめんね。ボクはそれでも……姉さまを諦めたくないんだ。姉さまと一緒に、千年王国で、誰にも差別されずに暮らしたい……そのためなら、何を犠牲にしたっていい。そこにキミがいなくたって、いいんだ」
再び伸ばそうとした手を、彼はやんわりと払う。
もうわかってるでしょう、と困ったように笑う彼は、もうわたしから目をそらしてくれない。しっかりと線を引かれたことも、あの不発に終わった攻撃が手遅れの意味だってことも、はっきりと伝えてくる。
「ばいばい、ナギサ」
彼の手が遠のく。消えていく。手を伸ばしても、名前を呼んでも届かない。
わたしの手は何も掴めないまま地面に落ちて、ただそこにうずくまって。ぽたぽたと落ちる涙が雪に沁みていくのを見るしかできない。
……約束なんて関係ないのに。
みんなの中に、君もいるのに。
そう、そうなの、わたし、ちゃんと言えなかったけれど。ちゃんと言葉にするのが怖くて、ぐるぐる悩むばっかりで。何もかもいつも中途半端だから、こんなこと言えるわけないって思って、途方に暮れて。全部全部どうにかしたいって我儘ばかりが溢れて、全然、上手に言えなかったけれど。
わたしの気持ちなんて、ずっと、それこそあの四千年前の時からずっと、変わらないんだ。
世界の誰もが許さなくても。
世界中が君を憎んでも。
それでもわたしは、君の隣にいたいよ。