君の傍にいたいって言うのは、我儘だ。
「おかえり、ナギサ」
しばらくうずくまってから宿に戻れば、先に戻っていたロイドが出迎えてくれる。
もう寝る準備は終わっているのだろう。ブーツも上着も脱いでベッドに座る彼に、わたしはなんとか笑顔を返した。
雪で濡れちゃったし、お風呂入ってからわたしも休もう。
先に寝てていいよ、と言って支度をしようとすれば、ナギサ、と名前を呼ばれた。
「……明日、アルテスタさんが無事だってわかったら、クルシスに仕掛けに行こうと思うんだ」
突然そう口を開いた彼は、まっすぐにわたしを見ている。
姉さんとも、姉貴とも呼ばずに。わたしを見て、わたしを呼ぶ彼は、相変わらず強くてまっすぐな目をしていた。
「俺は、絶対にミトスのやり方に賛同できない。エクスフィアになった人たちだって、死ぬために生まれたわけじゃない。誰も犠牲にしなくていい方法があるはずだって、俺はミトスに証明しないといけないんだ」
わかっている。
戦いを避けられない理由なんて、嫌というほどわかっている。
だから我儘なのだ。だから、苦しくても、わたし一人逃げるだなんてこと、できないのだ。
「俺は……ナギサにも、一緒に戦ってほしい。いや、戦わないといけないと思うんだ」
「……救いの塔では、止めてくれたのに?」
「さすがに、あんな顔してるナギサに戦えなんて言えないよ」
苦笑するロイドがそう言うのなら、あの時のわたしはよっぽどひどい顔をしていたのだろう。
今はどうだろう。ちゃんとできてるかな。でも戦わなくちゃ。頑張らなくちゃ。彼もそれを選んだのだから、戦わなくちゃ。
でもちょっとだけ弱音を吐きたくて呟けば、彼はすぐに首を振った。
「……戦えるかな」
「戦わないといけないと思う」
「なにそれ」
「だって、ナギサは、ミトスのことが好きなんだろ」
一瞬、言葉に詰まった。
ちくちく、ずきずき、胸が痛い。ぎゅっといつものように胸元のペンダントを握りしめたって、全然収まらない。
「……好きだよ。だから戦いたくないなって思ったんだけど」
「逆だろ。好きだから戦わないといけないと思うんだ」
何が言いたいのかよくわからなくて顔をしかめるけれど、ロイドの表情は変わらない。
ただまっすぐに、真剣にわたしを見つめている。
「あいつがしてきたこと、全部許すっていう奴は、いないと思う。あいつを倒したからって、問題が全部解決するわけじゃない。まだまだ生きて、変えなくちゃいけないことがたくさんある中で、ナギサがあいつのそばにいたいって言うのなら。二人がちゃんと戦って、けじめをつけないと、次には進めないって、俺は思う」
なあなあにしたらだめだ。戦って、喧嘩して、けじめをつけて。それから責任をとって、一緒に生きていてほしいんだ。
……そんな。まるで、わたしがミトスくんとこれからも一緒にいたいって、戦った後もどうにかして傍にいたいって思っているのが前提のような言葉に、無意識に後退りする。
「……一緒になんて、いられないよ。ミトスくんと戦わなくちゃいけないのは本当だし、頑張って戦うよ。でも、戦ったらもう、あの子とは……
「でもナギサは、一緒にいたいって思ってるんだろ?」
「そんなこと……」
「本当に、思ってないのか?」
まっすぐな目が、わたしを貫く。逃げるなと訴えるように、ひたすらに見つめてくる。
好きだよ、そのまっすぐさが。でも、でも今はすごく嫌だ。見ないで。見ないで。そんなまっすぐ、見ないでよ。
「……るわけないでしょ」
急に、我慢ができなくなった。
まっすぐで、強い目がわたしを見ていることに、耐えられなくなった。
ミトスくんを思い出させる目が、手放さなくちゃと思った目にそっくりなそれが、本当にそれでいいのかと問いかけてくることに、耐えられなかった。
「言えるわけないでしょ、それでも一緒にいたいなんて! 他のみんなが絶対に許さなくても、ミトスくんと一緒にいたいなんて!」