思わず叫んでしまってから、わたしは慌てて口を閉じた。
違う。怒りたいんじゃない。怒るのはよくない。感情任せになっていいことなんて何もなかった。
「ごめん、違うの……違うの、ごめん、なんでもない」
そりゃあ、本音を言えば、一緒にいたいよ。
さっき伝えることすらできなかったけれど、わたしはやっぱりみんなともミトスくんとも一緒にいたい。どれだけ悪いことをしてきたとしても、許されないことをしていたとしても、ミトスくんと完全に手を離すことができない。
おかしいかな。ダメかな。でもさ、許し合えないなんてこと、ないと思うの。償うために生きる人にも居場所は必要だと思うの。しいなはそれでもいいって言ってくれた。わたしのこの我儘なんて、きっとみんなは気にしない。
……でもそんなの、無理してるって、わかるよ。打倒クルシスを掲げてきたのは、みんなが大なり小なり彼らに傷付けられたからだ。そうやって他の誰かがまた同じように傷付けられることを許せないから、これ以上誰も傷つけない為に戦おうとしている。それなのに、その統治者のことを許してほしいと言うのは、ずるい。わたしが申し訳ないよ。
そうだよ、わたしは結局、わたしのために、我儘を言いたくないって我儘を言っている。
許せないよ、許せない。わたしだったら、そんな我儘、許せない。
「そうやって、何も言わないつもりなのか? 一緒にいたいって言わずに、戦わずに、ミトスから逃げるのか?」
「逃げるとかそういう話じゃないでしょ」
「そういう話だよ」
「違う!」
また声を荒げてしまって、わたしは泣きそうになる。
どうしてロイドはこんなことを聞いてくるのだろう。なんでそんな、追い詰めるように見てくるのだろう。何を言わせたいのだろう。
わたしは意識して深呼吸をして、必死に心を落ち着かせようとする。おかしい。こんなに動揺なんて、普段しないのに。参っているのかな。それならなおさら、さっさとお風呂借りて眠ってしまいたいのに。
「戦わないなんて言ってないでしょ。戦うって、ちゃんと言ってる。わかってるよ、戦わないといけないこと。ちょっと弱音吐いただけだよ、許してよ」
「……俺には。今のまま行っても、結局戦えずにいる姿しか想像できないけど」
手も足も震えてる、と指摘されたことを、寒さのせいだという言い訳をするには、部屋に戻ってきてから時間が経ちすぎてしまっていた。
「……じゃあ、ロイドは、戦うなって言いたいの。戦いたくないよって言ったら、それで満足なの?」
「違う。ちゃんと、覚悟を決めて、自分で選んで戦ってほしいんだ」
「嫌だ」
思わず答えてしまってから、はっとする。
ああ、そうだ、嫌なんだ。自分の意思で、しっかりと「ミトスくんと戦う」って言いたくない。
仕方ないよね。これを選ぶしかないんだよね。彼もそのつもりだし、わたしも今さら逃げ出すなんてできないし、これは仕方のないことなんだよねって、流されていたい。昔みたいに、流されるまま選択したい。
その方が楽だもん。どれだけ楽になれるか知ってるもの。
それに、そうしたら。
わたしの手を取ってくれなかったミトスくんに、怒ったりしなくていい。
「だって戦ったら、わたし、あの子の味方を絶対に出来ないってことだよ。わかってるよ、あの子の隣にいない時点で、わたしはもうミトスくんの味方になんてなれない。そういう道を選んでしまった。でも、自分から戦わなければ、あの子を否定したことにはならない。それなら嘘でもいい、隣にいれなくてもいい、あの子の敵にならずにいられるなら、それでいい。……でもこんなの選べないって、選んじゃいけないって、わかってるんだよ」
旅に出る前だったらきっと、迷わずにミトスくんを選べた。
でも、今はもう、選べない。だって、今のこの世界の仕組みのせいで苦しんでいる人たちをたくさん見てきた。その人たちのために戦いたいって、本気で思った。ミトスくんの選んだ道を正しいと言ってあげることは絶対にできない。
だから選べない。選べない。ミトスくんを選べないことが、すっごく嫌!
だったら何も選びたくない。どちらかを選んだら、どちらかを諦めないといけない択一の選択肢はもううんざりだ。だから、もう流されたい。仕方ないんだって、諦めたい。
「わたし、ミトスくんに怒るなんてできない。したくない。それでいいこと何もなかったもの」
「それは違う。ナギサは怒っていいんだ」
「なんで」
「それだけ、ミトスのことが好きだからだ」
傷付けたくないくらい大好きで、でも戦わないといけないってぐるぐるしている理由はそれだけだろって、彼は当たり前に言う。
相変わらず当たり前に、当たり前のことを。直視できないくらいに正しいことを、しつこいくらいに、眩しいくらいに、まっすぐな目で射貫いて、言葉にする。
「一緒にいたいって選択肢を選ばせてくれないミトスを、ナギサは怒っていいんだ」
そうだねって、すぐにうなずけるほど、わたしは清廉潔白な人間じゃないのに。
手を差し伸べてくるから、苦しい。