「ミトスがやったことは間違いだと思うって伝えたら、そりゃ、ミトスも反発するさ。でも、それは悪いことじゃない。むしろ、間違ってるってわかってて何も言わない方がよくないって、俺は思う。間違えない奴なんていないんだ。だけど、間違えたらやり直せばいい。意固地になっているなら、喧嘩してでも前を向かせて、それから一緒にやり直す方法を探すのが仲間だろ」
わかってるよ。だから余計にぐるぐるしているんだよ。
でもそれができないのは、ただ、わたしが臆病なだけだ。ああやって線を引いたミトスくんに近付いて、今度こそ遠ざけられることが怖い。戦った後、決定的に敵対した後、彼がもう二度と手を掴んでくれない気がして、怖い。
「それともお前はこう思ってるのか? ミトスは絶対、お前の話を聞かない頑固者で、もう救えないやつだって」
「思ってない! そんなこと思うわけない! ミトスくんのこと知らないくせに、そんなこと言わないで!」
「ああ。知らない。俺は、俺の知っているミトスのことしか知らない。ジーニアスの友達で、お前のことが好きだったミトスのことしか知らない」
ああ、上手な怒り方、わかんないな。これじゃ喚いているだけだ。
でも、戦った後にまた仲直りして元通り、また友達に、なんて、青春漫画じゃないんだから、そんな簡単にできないよ。喧嘩したら気まずいよ。わたし、そういう空気も嫌だから、喧嘩とかしないように、衝突しないように、何事も起きないように。元の世界でそうやって生きてきたの。
この世界に来てから、変わりたいって思って、いろんなことを頑張って来たよ。
頑張って、前を向けるように。大切な人を守れるように。体も心も変われるように頑張ってきた。
でも、もう嫌だよ。これは頑張りたくない。頑張りたくないのに、頑張れって、ロイドは言う。彼のことも、みんなのことも、世界のことも。全部大好きなら、欲張りたいなら、ちゃんと最後まで頑張れって。最後の最後で流されるなって、言ってくる。
「だから……ナギサが、ちゃんと伝えないとダメなんだ。ナギサがミトスと向き合って、話をするしかないんだ。何事も起こらないようにと願うだけじゃだめだ。一緒にいたいならいたいって、言わないといけない」
一緒にいるために戦うんだ、なんて。ロイドは当たり前の顔をして言ってくる。
気まずくなっても、手を取ってくれなくなっても。わたしが手を伸ばしたいと思うのなら、ちゃんと向き合えって、言ってくる。
「……さっきの言い方からして、他にも、一緒にいたいならいたいって言っていいって、言ったやつがいるんだよな。俺もそう思うよ。俺だって、ここまでずっと、他に方法はないのかって迷ってばかりだった。だからナギサだって、悩んでいいんだ。ミトスのそばに、誰もいないなんて、いいはずがないんだから」
「……ミトスくんのこと否定するために戦うのに、そんなこと言うの?」
「俺はミトスのやり方に賛同できないし、絶対に許せない。でも、だからって、ミトスがいなくなればいいなんて思ってないんだ。俺は、あいつがここにいたいって言うなら、それでいいと思う」
何度も、彼が言った通りだ。
嫌いな人でも、そこにいていい。無理に好きになる必要なんてない。ただそこにいることを、生きることを、許しあえればいい。
どこまでもまっすぐに、変わらない気持ちに、わたしは何も言い返せずにうつむいてしまう。
……わかってるよ。彼は、意地悪しているわけじゃない。後悔しないように背中を押してくれているんだ。どんな結末になっても、わたしが受け止められるように。ちゃんとわたしが自分の意思で決めないといけないって、言ってくれているんだ。
わたしも彼が正しいって、わかっている。流されたいって言うくせに、その通りに動くのが難しいくらい、正しい。
「……いいや、たぶん、違うな」
何も言い返せずにいるわたしに、ロイドはふと、懐かしむように笑う。
その優しい笑顔に、わたしはまた。ぎゅうと胸元を握りしめた。
「ずっと聞いてたからさ。一年間、毎日のように、ミトスくんの話を聞いてたから……ミトスくんとナギサが一緒にいるところ、俺も見たいなって、思ってたんだ」
いっぱい、楽しそうに話をしてくれただろ、と。
そう笑うロイドは、やっぱりいつも通り、ただのロイドで。
「戦うんじゃない。喧嘩しようぜ。ミトスとさ」
いつまでもぐるぐるしている自分が悲しくて、わたしは答えられないままお風呂に行ってくると部屋を出た。