夢を見る。
たまに見る、マーテルさんとの夢だ。
彼女との思い出をたどるようでたどらない、不思議だけど不思議じゃない夢を、今日も見る。
「本当に、ナギサと会えて幸せだわ。人もエルフもハーフエルフも、みんなが同じように笑っていられる世界がいつか来るって……たとえ手を取り合うことができなくても、認め合うことはできるって、信じさせてくれるもの」
このやり取りだって、わたしは今も覚えてる。
だって、ほとんどこれが最期の言葉だったから。わたしこの後、彼女達の前から消えてしまうから。だからこそ、何度も何度も思い返して、少しでも二人の心に残れたならいいって願って、泣いてほしいし泣かないでほしいなんて勝手なことを願った。
ほら。夢の中でも、地震のような地響きが聞こえてくる。この町で、二つの国の戦いが始まったのだ。
わたしはミトスくんを迎えに行かなくちゃって思って、マーテルさんは怪我人の救助と避難を優先して。二人ですぐに方針と合流地点を決めて、それぞれに走り出す。
そして、その先でわたしは、マーテルさんに笛をくれた黒髪のハーフエルフの女の子を助けて、ペンダントを一つだけ預けて。兵士と対峙した隙に、恐慌状態になっているハーフエルフの子に刺される。次に目を覚ました時はイセリアにいて、二人には、もう会えない。
───ここで、違う選択肢を、選んだら、どうなっただろう
ここはただの夢だ。本当に何かが変わるわけじゃない。
でも、考えてしまう。ここで、飛び出さなかったら。わたし、まだ、二人と一緒にいられたのかなって。わたしは無事にミトスくんとマーテルさんと合流できて、旅を続けて、ユアンやクラトスが仲間になった旅を進めて……そうしたら、マーテルさんは死ななかったかな。彼女を助けられなくても、ミトスくんの絶対の味方でいられたのかなって。
ああでも、わたしがここで飛び出さなかったら、笛をくれた女の子が危ない目にあってしまう。じゃあ、あの子と一緒にわたしも避難したら。ああでも、あの兵士を上手にまけるかな。そもそもあの恐慌状態になっていた子は、どこに隠れていて、どこでどうなってしまう運命だったんだろう。
だめだな。だって、未来を知っているから。違う選択肢を選んだら、失ってしまうかもしれないものが何か、わかってしまっているから。旅をしてきたせいでミトスくんの隣にいてあげられなくなってしまったように、「知っている」ということが邪魔をする。
見捨てるってこと、もうできないんだよ。そんなこと、選べない。
わたし、本当に我儘だ。
あれはしたいこれはしたい、でもこれはしたくないしあれもしたくない。
わあわあ喚くけど、絶対にどれかは選ばないといけなくて。誰かに代わりに選んでもらうこともできなくて、うずくまって。いろんな人が背中を押してくれているのに、最後、自分で歩き出さないといけない一歩を、まだ踏み出せない。
それでも、出会わなければよかったって、思えないんだから、ひどい。
「ナギサ」
立ち止まってしまっているわたしを、後ろから抱きしめてくれる人がいる。
マーテルさんだ。夢の中でも、彼女の腕の中はあたたかい。彼女の声は、とても優しく耳に届いてくる。
「私は、あなたが好きよ。臆病なくせに頑固なところも、可愛いところも、一緒にいて落ち着くところも。私たちのことをたくさん好きだって言ってくれるあなたが、大好き」
夢だ。都合のいい夢。
このマーテルさんの言葉も、きっとわたしが彼女に言ってほしい言葉だ。
わかってる。でも、心はとても、喜んでしまう。わたしも大好きだよって、叫んでしまう。
「あの日、すごく悲しかったけれど……とてもとても悲しくて、たくさん泣いてしまったけれど。誰かを守ったあなたが、私は誇りだった。だから……いいの。私たちのことなんて気にしないで。あなたは、あなたが選びたいことを選んでいいの。あなたが選んだことなら、私はその気持ちを尊重するわ。それはあの子も同じよ。……ううん。選んでほしいの。あなたに」
私たち、もっと喧嘩もすればよかったわね、と後ろでマーテルさんが笑う。
そうしたら、きっとこんなに悩まなかったわよねって、彼女の優しい笑い声が耳をくすぐる。
そうかな。そうかも。もっと普段から喧嘩していたら、今回もわたしがいない間に何やってるのって、ミトスくんのこと叱ってあげられたのかも。嫌われちゃうかもとか、今まで通りでいられないかもとか考えずに、彼の味方のまま、彼と戦えたかもしれない。
「ねえ、ナギサ」
わたしは、お腹に回っているマーテルさんの手をそっと撫でる。決して、繋いではくれない手を、愛おしいと思って撫でる。
きっと、目が覚めたら、わたしは泣いているのだろう。泣いて、泣いて……きっと、こう思うのだろう。
「あなたのしたいことは、なに?」
……ミトスくんと、もう一度話がしたいって。