118-2

目的の人を探しながら、一軒の家の前までたどり着いた時だ。
きっと、何かを探している様子なのがわかったのだろう。どうしたんだい、と言った顔で寄ってきたそのおばあさんは、けれどこの家に近付こうとしたわたしたちに首を振った。

「そこに近付くのはおやめよ」
「なんで?」
「エルフの女の人が住んでるんだけど、ちょっと変わり者でね」

きっと話も上手にできないよと、おばあさんは可愛そうなものを見る目で家を見つめる。
何を探してこんなところに来たのかは知らないが、ここの人に聞いても何もわからないさと、そう言って立ち去る彼女を見送って、リフィルさんは扉を見つめる。

「まさか……この家にお母様が……」

……エルフの女性。それだけの情報しか手元になくて、ここに探し人がいる保証なんてどこにもないけれど。きっと、彼女は何か予感がしているのだろう。ぎゅ、と胸の前で握った手は震えていて、緊張に満ちた表情で、立ちすくんでいる。
わたしたちが代わりに扉を開くことはできるけれど、なんとなく、それはしてはいけないような気がして。ただじっと見守っていれば、やがて弟を抱き寄せて、顔を合わせて。それから、リフィルさんはぐっと扉を開いた。

「誰?」
「失礼。ちょっと、お尋ねしたいんですが……!?」
「あら、ハーフエルフね。私の子供もそうなの。ほら、利発そうな顔をしているでしょう?」

中にいた女性を見て、リフィルさんがはっと息を飲む。
その女性は、とても綺麗な人だった。長い銀髪は、リフィルさんに似ているだろうか。ただ、あんまりにも穏やかな表情をしているから、ちょっとだけ二人とはイメージが違う。
もしかして彼女が、と思うよりも前に、ほら、と見せてきた子供を見て戸惑う。
……人形じゃねえか、と呟いたのは誰だっただろう。彼女が自分の子供だと言ってみせてきたのは、彼女が抱えている、少しぼろぼろになった、それでもきっと可愛らしかったのであろう、人形だ。
この時点で、外にいたおばあさんの「変わり者」というのがどういう意味か、わかってしまった気がした。

「この子はリフィル。私の自慢の娘よ」
「……え? 姉さんと同じ名前……? まさか……」
「今ね、お腹の中に、二人目の子がいるの。名前も決まっているのよ。女の子ならジーン。男の子ならジーニアス。どう? 素敵な名前でしょう?」
「……え……じゃあ……」

ジーニアスがちらりと姉を見る。
リフィルさんは、感情の読めない顔で、ただじっとその人を見つめていた。

「あの……あなたは……バージニアさん……ですか?」
「ええ、そうよ。よくご存知ね」
「……!」
「……冗談ではなくてよ」

ふわふわと笑うバージニアさんを見て、リフィルさんが低く声を零す。
それから、はじけたように大声を上げた。

「冗談ではなくてよ! どういうつもりなの! 私たち姉弟が、あなたに捨てられてから、どうやって生きてきたと思うの!」

そうまくし立てるリフィルさんに、いつもの冷静な様子はどこにもない。遺跡を見つけて浮かれている時とも、思い悩む時とも、全然違う。
ただただ、こみあげてきた感情をそのまま母にぶつける様子は、ある意味では娘らしい反応なのかもしれないけれど。
でも、リフィルさんのそんな気持ちは、彼女には届かない。バージニアさんは心底困った顔をして、ぎゅうと人形を抱え直すだけだ。

「な……なんです? 急に大声を出して……リフィルが起きてしまいますわ」
「リフィルは私です! あなたが疎んで捨てた娘は私よ! そんな人形なんかじゃない! ジーニアスだって、ここにちゃんといるわ!」
「何を言っているの? おかしな人ね」
「おかしいのはあなただわ! よくも……よくも……」

リフィルさんがぐっとうつむくけれど、バージニアさんはやっぱり、リフィルさんを自分の娘だとは、認識してくれない。困り果てたようにリフィルさんを見た後、慌てて自分の腕の中の人形へと視線を向ける。
よしよし、とあやすように人形の背中を叩くのは、間違いなく泣いている赤子をあやしているからなのだろう。わたしたちには物言わぬ人形にしか見えないけれど、彼女の世界では、今、可愛い娘が大声に驚いて泣いているのだ。

「……ああ、リフィルが泣き出してしまったわ。もう、出て行ってください!」
「ああ……いい子ね……リフィル。怖いお姉さんたちは、行っちゃいましたよ……もう泣かないで……」
「……!」
「姉さん!」

耐えられないとばかりに家を飛び出したリフィルさんに、わたしたちも慌てて後を追う。
最後にちらりと見たバージニアさんは優しい母の顔をして人形に接していたけれど。……やっぱり、一度も。こちらを見ることはなかった。