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しっかりと日記をしまって、少しだけ目元を冷やして。そうして、リフィルさんとジーニアスがもう大丈夫だとうなずいたところで、わたしたちは今度こそみんなと合流しようと町を歩きだした。
ついでに聞いた話によると、ここはエグザイアという町で、初代町長が契約した精霊の力によって空に浮いているらしい。
たまに地上に近付いては、ハーフエルフや世を追われた人が逃げ込む場所になっている、らしい。だから数年前に保護したと言うバージニアさんたちもここに暮らしていたのだなと理解すると同時に、もっと早く家族がこの町にたどり着いていれば、リフィルさんとジーニアスは、ずっと両親と一緒に暮らせたのかな、なんて思ってしまう。

いったいいつから浮いているのか知らないけれど、ミトスくんとマーテルさんと訪れる未来もあったかもしれないなあ、って思いながら歩いて……そして。
戦闘でもしていたのか、やたらぼろぼろになったみんなを見つけて、わたしたちは慌てて駆け寄った。

「み、みんな、なんでそんなぼろぼろなんだ!?」
「あー! お前ら! どこ行ってたんだよ!」
「おお、元気の良さそうなのがまた増えたわい」

駆けつけたわたしたちに、ゼロスくんが大声をあげる。
そんな彼を笑うのは、一人のおじいちゃんだ。
長いひげのおじいちゃんは……たぶん、精霊、だと思う。なんか不思議なものに乗っているし、ふわふわと浮いている彼の足元には石碑のようなものがある。この町を浮かせている精霊だと思った方が自然だろう。

「あれは……精霊?」
「そうさ。マクスウェル。この町を浮かせている精霊だよ」
「ついさっき、戦いが終わったところだよ〜……」
「俺たちのこと呼びに来てくれたらよかったのに」
「四の五の言わずに戦闘を始められちまったからね。そんな余裕もなかったのさ」
「ほっほっほ。久しぶりの契約の資格を持つ者じゃったから、つい盛り上がってしまったわい」

大変だった、と笑うコレットは、戦闘中に転んだのだろうか。頬が汚れているのを見てハンカチで拭ってやれば、マクスウェルと呼ばれたおじいちゃんの精霊は、茶目っ気たっぷりに笑ってみせる。
なんでも、この石碑の前まで来たところでマクスウェルがこの町を浮かせているのだろう、と推測した時点で、本人……本精霊って言った方がいいのかな? が姿を見せて、あれよこれよという間に戦闘が始まってしまったらしい。なんとも元気いっぱいなおじいちゃんである。

「聞け! お前ら! ほんっとに大変だったんだからな! 主に俺が!」
「……このメンバーの中で、治癒術が使えるのはゼロスくんだけですから」
「そのうえ、我々は基本的に前に出て戦う者ばかりだ。リフィルの治癒術の偉大さが身に染みた」
「ゼロス、ずーっとヒールウィンド唱えてたもんね」

なるほど。確かに言われて見れば、しいなとコレット、リーガルさんにプレセアちゃんにゼロスくんというこのメンバーの中で、明確に治癒術が使えるのはゼロスくんだけだ。
一応、リーガルさんもかろうじて使えるけれど、効果はさほどでもないし、回復で足を止めるくらいなら前に出て戦った方がいい、と判断してもおかしくない。

神殿とか、一軍と二軍に分かれて進むときに回復を彼一人に全部任せたことはあるけれど、その時は前衛と後衛、ある程度バランスを考えての編成をしていたし……こんな前のめりな編成の時は、基本的にリフィルさんに回復をお願いしていたから、もうてんてこ舞いだったようだ。
リーガルさんにプレセアちゃんはガンガン前に出るし、しいなとコレットだってある程度距離を取って戦うイメージがあるだけで、かなり前に出るもんね。
いつもは前衛一人を壁として置いて、ジーニアスの術とか、前に出過ぎないよう指示したコレットの天使術をメインにゼロスくんは自由に立ち回らせていたから、普段通りの動きができない、というのも彼がひいひい言っている理由かもしれない。

いかに自分たちが常日頃リフィルさんにお世話になっているかを再認識したとか、いつも術士や前に出過ぎない人間を入れて前のめりになりすぎないように組まれている編成がいかに素晴らしかったかを涙ながらに語るゼロスくんに、わたしはよしよし、と頭を撫でておいた。

「そっか……頑張ったねえ、ゼロスくん」
「うわーん! もっと褒めてママー!」