エグザイアを離れて、さあ、いざ、とやってきた救いの塔だけれど、その入り口には数人の天使が見張っているのを見て、わたしたちは足を止めて物陰に隠れた。
「ダメだ、塞がれてる!」
「このままでは退路を塞がれてしまうわ」
以前進入した実績があるから、見張りが置いてあること自体は、おかしくないことだけれど。それでもやっぱり困るのも事実だ。潜入する際はできるだけ静かにしたいし、無用な戦闘も避けたい。
なにより、潜入を知られるということは退路を塞がれるということでもある。こちらから仕掛ける、と確かにロイドは宣言したけれど、状況によってはもちろん途中で退避することだって考えられている。その際、ああして天使がいられると非常に邪魔だ。
「ロイド、こっちだ!」
どうしたものか、と考えていると、後ろから声が聞こえてきて、みんなでそちらに向き直る。
声をかけてきたのはユアンだ。彼がこっちだ、と道案内するように駆け出すのを見て、わたしたちは顔を見合わせた後に素直に彼を追いかける。……彼は、確かにかつて、ミトスくんの仲間だったけれど。今、レネゲードとして対立していることは、もう十分にわかっているから。ここで、わたしたちを騙すようなことはしないだろう、という判断だ。
信頼した通り、彼についていけば裏口のような場所まで案内してくれた。感謝しながらも、どうして今ここに来たのだろうとロイドが問いかければ、ふんと彼は鼻を鳴らした。
「どうして俺たちに協力してくれるんだ」
「ユグドラシル……に正体を知られた今、もはやマーテルを救う手段はお前に手を貸すことしかないからだ。慣れあっているわけではない」
「ひねくれた奴だな。まあいいや。協力してくれて、ありがとう」
ある意味ものすごく素直な返事に苦笑して、それじゃあ、と進もうとしたところで、わたしは慌てて声を上げた。
「……ま、まって、ユアン!」
みんなの足も止めてしまうことになるのは、とても申し訳ないのだけれど。
でも、どうしても、今聞きたかった。ううん、今しか聞くことがもうできないだろうなって思ったから、わたしはユアンを呼び止める。そのわりに、しどろもどろになってしまって、なかなか上手に言葉を続けられないのが、なんともわたしらしく情けない。
それでも聞きたいことを絞り出せば、彼は静かに目を閉じた。
「その……あなたは、ミトスくんたちと……」
「……そうだ。我々は同じものを目指し、共に戦う仲間だった。あなたのことを知ったのも、ミトスとマーテルがよく話していたからだ」
それはすでにわかっていたことのはずなのに、改めて本人から言葉にされると、どうしても動揺してしまう。
本当に、彼はわたしがいなくなった後にミトスくんとマーテルさんの仲間になったんだなとか。それなのに、今はこうして対立することになってしまったんだなとか。そりゃあ、わたしのことを知っていてもおかしくないよなとか。
いろんなことを思っては、どうしてこんなことになってしまったんだろうと視線を落とす。
こんな風に、敵対しないといけない関係じゃなかったら。もっと、落ち着いた時間だったら。そしたら、きっとユアンから、ミトスくんとマーテルさんの話を聞けたのに。
そういう……あの頃のことを懐かしむような、そんな時間が手に入れば、それでよかったのに。
「あのナギサならば、ミトスを止められると思った。だが、奴はあくまでマーテルの復活を望んだ。……だが、頼む、ナギサ」
ユアンはわたしをまっすぐに見つめると、深く、深く頭を下げる。
確かに彼らは私の仲間だったのだと、共に幸せになりたかったのだと、そう言って。
「マーテルを、眠らせてやってくれ」
……きっと、ミトスくんとはまた違う形でマーテルさんを大切に思っているのだと、そう真摯に伝えてくる声色に、わたしはどこか、少しだけ救われた気がした。