「未練が残らないように、皆殺しにしてあげる!」
そう高らかに吼えながら突進してくるチトセの動きは、正直以前よりもずっと素早く厄介だ。
教団イン二人が追加されたのもあるけれど、わたし一人の回復では間に合わずにアンジュさんやイリアも支援に回るほど、縦横無尽に彼女は戦場を駆ける。
その姿は、どこか。いつかの記憶の中で見た、戦場に立つ花の女神に、そっくりだった。
「私は……手に入れる! すべてを失っても! モータル・シャドウ!」
強い強い叫び声と同時に、チトセの姿がぶれて見える。
次の瞬間。戦いの最中だということを忘れるくらいに静かに地に着ける彼女の姿は、もうチトセではない。紫色の衣を纏った美しい花の女神の姿だった。
彼女を中心に巻き起こる花吹雪に服を裂かれながら、わたしはその花の女神に……サクヤの姿に、歯噛みした。
たぶん、怒っていた。いつまでも前世ばかりを見て、そこにいる彼女に。チトセではなく、サクヤとしてそこに立つ姿に。なんだか悔しくて憎たらしくて、たまらなかった。
「我らに恵みの光を雨と降らせん! ハートレスサークル!」
「今だ! 地を征する烈士の炎、緋焔轟覇斬!」
わたしが出現させた光の陣の中にとらえた全員、チトセに与えられたダメージ以上に回復させる。傷さえなければ動ける。ここに今みんなは生きているのだから。
そしてルカはこのタイミングを見逃すことなく踏み出すと、炎を纏った剣で彼女を勢い良く突き飛ばした。
地面にうずくまって動かなくなったチトセに、みんなは息を整えながらも武器を向けて牽制する。
「おい! もう懲りただろ。だいたい、世界を滅ぼそうなんてろくでもないマティウスなんかのところへ、ルカが行くわけねぇだろ!」
「そうよ! スパーダの言う通り! あんたたちなんかに創世力は……世界を滅ぼさせはしないんだから!」
イリアが指を突きつけると、チトセは一度目を見開いたあと、信じられないとでもいうような歪んだ笑みを浮かべた。
「……世界を滅ぼさせはしないですって? 何を言ってるの?フフフ……こんなに質の悪い冗談を聞いたのは生まれて初めてよ……言ったでしょう、まだ思い出せてないの? 天上界を滅ぼしたのはあなた……イナンナのくせに!」
そう指を指すチトセは、嘘をついているようには見えない。
「アスラさま。このまま進めばきっとイナンナはこの地上も滅ぼすわ。私達を裏切ったあの時と同じように。私は知ってるの。イナンナはそういう女よ!」
「だからてめぇ! 苦し紛れにそんな大ボラ吹いてんじゃねえよ!」
「アスラさまが手に入るまで、私は諦めない! 絶対に!」
笑い声を響かせながら、チトセはどこかへ姿を消す。
わたしは彼女にかけなければならない言葉も考えられず、ただそれをぼうっと眺めていただけだった。