戦艦の中を歩き回っていれば、やがて脱走したのがバレるのは当然だ。
でも気がつけば九人もの大所帯になっていたわたしたちは、そこまで労力を割かずにやってくる追っ手を退けながら進むことができる。いやほんと、数の暴力だよね。
やがて無事に脱出用の船を見つけて、わたしたちはようやっと息を吐いた。
「よし! これだな! おい、誰か船の操縦できるか?」
「この程度の船なら俺に任せてくれ」
「この船、キュキュたちのモノになるか!?そ れはいい!」
「そうはさせないわ!」
さっと船を調べたリカルドさんが頷いたとき、少女の声がわたしたちを立ち止まらせた。
数人の教団員を引き連れてきたのは、予想通りチトセだ。
彼女はわたしたちには目もくれず、悲しそうな顔でルカに話しかける。
「アスラさま……どうしてわかってくれないの……? そうよ……そうだわ! アスラさまはそんな連中と一緒にいるからダメなのよ。ねえ、アスラさま。私と一緒にきて。さもないとそいつら全員、この船もろとも沈めるわよ」
まるで漫画のヤンデレみたいな言葉を、チトセは悲しそうにしながらも真面目な声で紡ぐ。
その目は本気だ。本気でルカのために船を沈めるつもりだと、そうわかってしまって。ぞわりと背筋が凍るのを感じてたじろぐが、スパーダやエルは却って怒りを露わにして前に出た。
「冗談じゃねえぞ! そんな手に乗るかよ! ルカ、オレたちのことなんて気にすんな!」
「そうやそうや! こんな奴の言うこと、聞かんでええでルカ兄ちゃん!」
「外野は黙ってなさいよ……私はアスラさまに聞いてるの。アスラさま、私と一緒にきて……ね?」
手を伸ばすチトセに、ルカは彼女以上に悲しそうな顔をして、ゆっくりと。
でもはっきりと首を横に振った。
「僕は、行かない……」
「アスラさま。私は……本気なのよ」
チトセの声が低くなると同時に、わたしたちの隣の壁が爆発で吹っ飛んだ。大きな音にびっくりして思わず耳を押さえていると、ごうごうと火の手があがる。
たぶん、爆弾を起動させた、のだと思うけれど。その本気具合に戸惑ったのはわたしたちだけじゃない。チトセの傍らに控えていた教団員も、彼女のこの動向は予想していなかったらしい。慌てた様子で彼女に声をかけるのが見える。
「チトセさま、何をなさいます!」
「アスラさまが手に入るのなら、こんな船やあなたたちの命なんてどうでもいいでしょ……さあ、アスラさま?」
「行かないって言ってるでしょう。どうしてもと言うならチトセさん。僕はあなたを倒す!」
彼女のそばにいる教団員が言っても。
ルカ本人が言っても。
彼女の耳には、ちゃんと届いていないようだった。