40-2

「ここがガルポスかぁ。空気の匂いが今までの町と全然違うね」

無事に船を脱出して、なんとなーく、これ以上チトセのことを触れられず、そのまま脱出鑑を使ってガルポスに入ったわたしたちは、今までとは違う蒸すような空気に思わず息を吐いた。
イメージとしてはまさしく南国。やっぱり地域ごとの気候は地球とあまり変わらないみたいだ。

「うへぇ〜蒸し暑い……」
「このガルポスは十年ほど前の戦争で敗北し、それ以来王都の管理下……いわゆる植民地になっている」
「レグヌムの植民地……か。でもよ、言葉の物々しさとは雰囲気がずいぶん違うよな」
「王都の管理政策が上手く行っている証だな。それに植民地を締め付けずそれなりの豊さをアピールすれば、他国も降伏しやすくなるというものだ。別にガルポスのことだけを考えた政策ではないだろう」

難しい政策はわからないけど、とりあえず、飴と鞭を使い分けることでガルポスにもそうじゃないとこにも、自分の植民地になるといいことがたくさんあるよー……って示す方針を取っているらしい、ってことかな。
確かにガルポスの人たちの表情は柔らかい。なんだったら、戦場近くよりずっとのびのびとしていて安心する。これなら、別にどこの支配下に置かれようが関係ないや、って思えるかもしれない。

「でも、みんな陽気で朗らか……戦場が遠いから、心に余裕があるみたい」
「陽気といえば聞こえはいいが、戦時下のこのご時世にこの緊張感のなさ……俺には馴染まんようだ」
「えー。平和なのが一番じゃん」
「リカルドは根っからの傭兵だね。やっぱり戦場が恋しいの?」
「人をトリガー・ハッピーのように言うんじゃない。だがまあ、傭兵は天職なんだろうな」
「思い切り羽を伸ばしたくなることはないの?」
「そう思うときもあるが、今はそういう時でもないだろう」

わたしにはよくわからないが、それが傭兵として生きた人の当たり前なんだろうか。
こういうときに異世界ギャップを感じる……いや、わたしの世界でもそういうのなのかもしれない。わからないし、わかりたくもないけど。
平和が一番だしね!

「そうしたら、ここの信仰の場所とか形は、王都に合わせて変わったりしてるの?」
「それはないみたい。たしかに信仰の形を変えて同調させるのは、支配において手っ取り早いやり方だけど、反発も多いもの。それに、絶対的な神というのは存在しないから。ここは自然を……龍を祀ってるはずよ」
「龍?」
「ええ、そうよ。正確には自然を信仰の対象にしているけれど、やっぱり具体的な神様のイメージがどうしても必要になるのよ。それが精霊なのか神様なのか、はたや異形のものなのかは様々だけど、このあたりは龍脈なんかの影響もあるのか、龍神の形で定着したみたい」

バルカンみたいに鍛冶士だから鍛冶の神をーとか、豊穣の女神イナンナは農業を営む人にーとか。その土地の歴史や立場、情勢によって信仰する神は違う。逆に言えば、ウズメとかオリフィエルとかも信仰されてる場所があると言ってもいいくらい、信仰されていない神様なんていない、とのことだ。
こういう神様がいるから、こういう神様を祀ってね、と言うくらいはするらしいけれど、基本的にこの世界はもともと多くの神が存在していた世界。誰か一人だけを信仰するなんて形はとらないから、信仰を統一するのは意味がない、のだとか。
よく歴史の教科書では、宗教統一とかいう単語が出てきたから気になってたけど……みんな八百万の神々を祀ってるって感じなのかな?

「そんなことはええから、早く町に行こ! さっきから、果物の匂いがすんねん!」

立ち止まったまま話していたわたしたちに痺れを切らして、エルが駆け出す。
それに仕方ないなあと言いながら、いつもよりずっと早い動作で歩き出すアンジュさんも、きっと同じように果物が気になってたまらないのだろう。隠しきれない食いしん坊さん達に、みんな苦笑いを浮かべた。