ガルポスジャングルを進んでいくと、やがて少し開けた場所に出た。
しかし、そこにあるのは祭壇だとか記憶の場だとかそういうものではなく、人間が今も生活してそうなテントだ。それともキャンプ場というべきか。
ひらひらと吊された洗濯物が揺れる下で、ズボンだけを身に纏った老人が鼻歌を歌っている。
「こんなとこにテント……?」
「ほほう、ユーたち! ワシのフリーダムに溢れたソングをリスニングしに来たんじゃな!」
「はい? ええっと……フリーダム? ソング? リスニング? の一体、どういう意味が……」
「皆まで言うな! わかっておる! わかっておる!ユ ーたちのようなヤングな若者は誰しもが皆人生に思い悩むもの! さあ、ワシの魂のソングを聴くがいい!」
お爺さんはそう言うやいなや、全裸のブルースというどこかで聞いたような歌で全裸ライフを始めた。アンジュさんが完全に引いている。
それにしても元気なお爺さんだ……ルー語を使いこなすとは……いや説明がほしいところでこれ使われるとすごくわかりづらいな。信仰の跡はこの奥にあるらしいという話を聞き出すにも少しだけ苦労した。すぐに歌うんだもん。
「つまり、この老人の言わんとするのは、天上界の遺跡がこの奥にあるけど、道中には危険が伴う……ってところか」
「さすがウェイリンガルですね! ざっくりまとめセンキューです!」
「なにそれ。また変な名前をつけるね」
コンウェイさん、話をまとめるの上手だったからつい。
なんとなくお爺さんにノリを合わせて言うと、お爺さんはオウ! と嬉しそうに笑ってくれたけれど、すぐに奥に行くのはやめとけ、と歌い出した。
「やめとけやめとけ。ジャングルの奥は人の手の届かぬ獣のワールド、無法のワールド。ワシやあの子供のようにフリーダムでピュアなハートを持たねばたちまち自然が牙を剥く」
「あの子供って……ひょっとして犬連れた?」
お爺さんの言葉に、エルが反応する。
するとお爺さんは少しだけ目を見張った後に、うっすらと微笑んだ。
「ほうほう、あの子をご存じか。シアンという名の不憫な子。ならばあの子の物語、しばし語ってしんぜよう。あの子は不憫な子でな。母親の胎内から二匹の犬と共に生まれて出たのさ」
「いい!? 犬と一緒に生まれた? 転生者とはいえ、生まれた瞬間からインパクトあるなぁ……」
「もちろん鬼子扱いされてな。人里離れた僧院に預けられた。だが、そこで悲劇が起こってなぁ。ある日、犬を危険と感じた僧が処分しようとしたところ、逆に無残に噛み殺されてしまったのだ。そのままシアンは僧院を飛び出し、以来天涯孤独の身。あてどなく放浪することになる」
「あんな小さな子に、それは気の毒ね……」
「親の愛も友の愛も知らずして育ったシアンは、ピースフルなハートがパーフェクトにナッシングなのだ。不憫だ不憫だ不憫だろ? だからワシはシアンのために歌を作ったのだよ」
ひとしきり話した後にまた歌い始めたお爺さんに、イリアががっくりと肩を落とす。
悪い人ではないし、シアンのことも教えてくれたけど……なるほどこれがフリーダム。話しづらくて困るけれど、あまり悪い気がしないのはフリルの似合うフリーダムな男を知ってるからだろうか。
「歌わなくていいわよ、も〜」
「あの子も転生者として生まれてしまったがゆえの不幸。天上界の崩壊が招いた悲劇ね……」
きっと、根から悪い子ではないんだろうな。ただ、誰も彼の隣にいなかったから、どうやって生きればいいのかを知らず、マティウスに利用されているのだろう。
ケルベロスもそうだった。
独りきりで創世力を守り続けていた。ウズメはあまり会いに行ったことなどなかったけれど、彼はずっとずっと独りきりで、何度転生しても創世力から離れることなどできなかったことを知識として知っている。
彼は今も、一人なのだろうか。それは、とても悲しいなと、思った。