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連れてこられた部屋は、先ほどよりいくらか広いだけの何もない場所だった。
ただ、わたし達を待ちかまえるように男の人が一人立っている。その人は何故か、こちらにギラギラした視線を向けてきていて、わたしはちょっと怖くなって、みんなの後ろに隠れた。
もちろん、すぐに横一列に並べと言われてしまったので、前に出ざるを得ないのだけれど。わたしたちとその男の人が対面するように並んだのを確認して、案内してきた人が声を張り上げた。

「ルカ・ミルダ! イリア・アニーミ! スパーダ・ベルフォルマ! それからえっと……お前の名前は?」
「ミオです」
「ミオ! 貴様王都に戸籍登録されておらぬではないか! まったく、別の罪まで出しおって……まあいい、これより貴様らの適性検査を行う! 目の前の敵を倒せ! 以上」
「目の前の敵? 一人じゃねーか。四対一かよ、ナメられたもんだなッ!」
「ちょ……ちょっと待って! 戦うって、人間と?」

だって目の前にはこの男の人しかいないよ!? ガチファイト?
混乱する頭でそう問えば、当然だろうと頷かれる。
当然って……当然じゃないんだけど、わたしのような反応はルカくんしかしていないようだ。

「そうだ早く倒せ。さもなくば、死ぬぞ?」
「イヤだよ! 魔物相手ならともかく、この人にだって親や友達が……」
「ふん。相手はそう思ってはくれんぞ。いいのか?」
「おい、そこの貴様!」

ビクッと体を震わせる。
今の声はわたし達がこれから戦おうとする男のもののようだ。
怯えながらもそちらに目を向ければ、彼は凄い形相でこちらを……いや、ルカくんを睨み付けている。

「え? そこの貴様って……僕のこと……?」
「覚えて……いや、思い出したぞ! 貴様に殺された同胞たちの顔を! 貴様に砕かれた我が四肢の痛みを!」
「え? ルカくん、なかなかヒドいね……」
「見かけによらず残酷なことしてたのねぇ……」
「してないよ! そんなこと! 人違いでしょ? 僕ケンカなんてしたことないし……ましてや、人を殺すなんて!!」

君はこの中で唯一、戦いを好まぬ仲間だと思っていたのに、と少し距離をとってイリアちゃんに近寄れば、彼は慌てて訂正を入れてくる。
しかし相手は聞いていないらしい。怒りに突き動かされるように、ぐぐっと全身に力を込めるように前屈みになったかと思うと、その周りに黒い靄みたいなものが滲み出てきた。
なに、と後退りすると、彼は強く強く、吠えるように叫ぶ。

「貴様を殺し、我がラティオの同胞たちの命を贖わせてやる! 死ね! アスラ!」

ひときわ靄が濃くなったかと思った次の瞬間には彼の姿は消え、かわりにそこには、奇妙な生き物が空を飛んでいた。
人型なのかもしれないけど、全体的にのっぺりとした紫色のそれは、とても人とは思えない。手に持った大きな剣も不気味に光を反射していて、わたしはひい、と後退りした。

「なっなんだこりゃあ!」
「おっお化け!?」
「人間じゃないじゃない! なによ、これ……」

さすがに全員が驚いて固まってしまう。
しかし相手は容赦なく大剣を振りかざして飛んできた。

「ラティオの敵、同胞の敵、天上界の敵! アスラぁぁあああ! コロス!」
「うひゃああああ!?」