「これで……! 砕氷よ、アイスニードル!」
あんまりのことにビビり散らかして、腰が抜けてしまって。隅の方うずくまっている間に、勝負はついたらしい。
イリアちゃんが唱えた氷柱が相手を貫いた後、ゆっくりと姿が最初に見た人間の男へと戻っていく。けれど彼はその姿が完全に人間になっても尚、譫言のように恨み言を呟き続けた。
どう、と倒れ込んで、ようやく声が聞こえなくなって、彼が、死んでしまったのだとわかって。
わたしは、腹の底から何か苦いものがこみあげてくるのがわかって、慌てて口を両手で塞いだ。その両手も、ガタガタと震えている。今すぐにでも叫び出してしまいたいような、そんな感覚。
怖い。
「一体、なんだってんだ……? それに、アスラだって?」
「これって、前世の因縁なの? ラティオとか言ってたけど……」
「ラティオ……あのアスラのセンサス軍と戦ってた相手、ラティオ軍……」
「左様。先ほどの相手は貴様らと同じく前世で神だった者。教団から連れて来られた者だ」
そう説明しながら入ってきたのは、太った眼帯の男だ。
見るからに傲慢そうな男を見て、イリアちゃんが小さく「オズバルト」と呟いたのが、彼の名前なのだろう。
オズバルトは愉快気に、まるで品定めでもするようにわたし達を見まわした。
「神……?」
「まあ、天上人と呼ぶ方が正しいがな。なんだ? あのような力を振るっておきながら知らなかったのか?」
「じゃ……さっきの変身は前世の……神だった頃の姿ってこと?」
ああ、そうだ。わたしは、あの姿を知っている。
あの姿をした神のことを、知っている。
夢の中で。ウズメの記憶の中で。あの特徴的な体を持つセンサスやラティオの神々に、その都度地上からの祈りを彼らに届けていた。
知っている。驚くほどに。
本当に、あの夢が自分の前世であると信じざるを得ないほどに。知っている。
「なかなか察しがいいなお嬢ちゃん。全ての記憶を呼び起こし、前世の力を完全に取り戻した結果だ。つまり「覚醒した」というわけだ。よほどのことがないと、そうそう覚醒などしないはずなのだが……な」
「つまり、さっきの相手にとってルカと会ったことは「よほどのこと」だったのね……じゃあもしかして、転生者同士ヘタに会わない方がいいかもってこと?」
「じゃ……じゃあ僕にも前世の姿を取り戻すことが……」
「じ、冗談じゃない! よくわかんないけど、ここってつまり、そういう施設なんでしょ!?」
適性検査だとかいう言い方とか、この気軽に殺し合わせる感じとか、転生者でもないのに詳しい様子とか、いろいろおかしい。兵力が欲しいんだろうな、というのはこれまでの流れでわかるけれど、これは絶対、研究、とか、している。そうじゃなきゃこんなに詳しく説明なんてできないはずだ。
つまり、わたし達をモルモットか何かだと思ってる。そんな理由で今の人も死んでしまったのだと思うと苦しい。この人は自分じゃない、ずっと昔の感情に飲まれて死んでしまったようなものだ。そんなのおかしい。こんな扱い絶対におかしい。
そう、混乱したまま叫ぶけれど、オズバルトはにい、といやらしく笑うだけだった。
「おい次を呼べ! こいつらは実戦で使えそうだ」
「ち……ちょっと待って! 聞いてってば!」
「ミオ! 次はちゃんと動けよ!」
「いいい、一般人に、何期待してんのっ!?」
「僕、もう戦えないよ……力も……出ないよ……」
「ちょっとォ! 死にたいの? しっかりなさい!」
相変わらず動けないままでいるわたしの横で、同じように気持ちが折れてしまったのだろう。がっくりと膝を着いてしまったルカくんに、イリアちゃんがそう必死に声をかけてくる。
そんな事言ったって、怖いものは怖いし戦えないものは戦えない。
そんな度胸も覚悟もわたしにはない。
だが、続けてやってきた男もルカくんを見るや、その姿を変えるほどに怒りを現してきた。
「アスラ! 貴様ぁぁあ……また一人、我が同胞を手にかけたな! 許さんぞ、許さんぞぉぉおお!」
「どいてろ! ルカ!」
ルカくんを押しのけて、スパーダくんが剣を抜いた。
二刀流のそれを構えて相手を強く見据え、そして力強く言葉を発する。
「心に剣を持ち、誰かの楯となれ! 昔、じいがよく聞かせてくれた言葉だ。怪我しないように下がってな! 行くぜ!!」
「……っ! デュランダル!」
ルカくんが何かを思い出したようにそう呟いたことを開戦の合図に、二人は一気に地面を蹴った。
「瞬迅剣!」
「ツインバレット!」
二人は、拳銃と二刀の剣を、まるで自分の手足のように使いこなしては相手の動きを封じていく。
だいぶ戦い慣れているらしいその姿に、ここではつまり、そうやって戦う機会がよくあるのだろうなと察してしまって、また泣きたくなる。
おかしいよ。おかしいよ。どうしてこんなことになっているのだ。
「った!」
小さくイリアちゃんが悲鳴を上げるのが聞こえた。
見れば攻撃を受けて、その腕に赤い線が入っているのが見える。血が流れている。ああ、怪我をしたんだ。ひどい。
ざわりと鳥肌が立つのがわかった。
わたしが何もしないから、代わりに戦っている彼女らが傷付く。でも仕方ないじゃないか。わたしは、「我」は、戦う力なんて本当に、これっぽっちも持っていないのだ。
でも、でも、でも。やめてほしい。傷付かないでほしい。わたしの前で、怪我なんてしないでほしい。
ばさりと、どこか遠くで鳥が羽ばたくような音がした。
広場の時と同じだ。それを聞いた途端、なんだか体の奥が熱くなるような感覚がして……わたしはイリアちゃんに向かって手を伸ばし、叫んだ。
「……っいっ……痛いの痛いの、飛んでけえ!」
そう叫べば、イリアちゃんの周りを薄緑の淡い光が舞って、腕に出来た傷がすうっと痕も残らず癒えていく。
本当に治癒出来た、と自分でも驚いていれば、イリアちゃんはくるりと銃を回しながら相手にトドメをさし、笑いかけた。
「さんきゅ!」
「う、うん……」
怪我、治せるんだ。
わたし、本当に。
全然、使い方、わからないけれど。
呆然としている間に、戦闘は終わったらしい。
スパーダくんは剣を収めてこちらに歩いてくると、ふ、と笑った。
「やれやれだ。お前ホントにアスラか? なっさけねぇなぁ」
「じゃあ、君はやっぱり……」
ああ、とルカくんの質問にスパーダくんは頷く。
「そう。オレの前世は聖剣デュランダル。天上界において、「その刃、斬れぬ物は帯剣者のみ」そう謳われた無比の名剣さ」