「そう、君は僕の愛剣だった。幾度も共に死線を潜り抜け、その都度君に感謝していたっけ」
「まあ今考えるとお前ってさ、剣に話しかける変な奴って話だけどな」
「き……君だって、剣のくせに喋ってたじゃないかぁ。そっちだって十分ヘンだよ!」
「へっ!言うじゃねぇか。デュランダルなしじゃなんもできねぇヘタレだったくせに」
デュランダル。ああ、聞いたことがある気がする。
ルカくんの言っている通り、アスラが持っていた剣で、わたしは……ウズメはあまり話したことのない、名剣。
かつてのことでも思い出しているのだろうか。語らっていた二人は、やがてルカくんが何も言い返せなくなったところで、スパーダくんは前触れもなくルカくんを自分の方に引き寄せてぎゅっと抱きしめた。
驚いて固まってしまった彼など気にせず、スパーダくんは嬉しいのか切ないのかよくわからない表情でぎゅうと抱きしめる力を強くする。
「久しぶりだな。会いたかったぜ」
「あ……ああ、うん、僕も……」
「お前に言いたかったんだ。友と言われて心底嬉しかったんだって」
「……うん」
二人、空気に浸るように目を閉じる。
感動の再会……なのは、わかる。わかるけれど、その、なんだろう。空気がちょっと、いたたまれない。
まだ座り込んだままのわたしに駆け寄ってきてくれたイリアちゃんも同じように思っているらしい。なんとも言えない顔を見合わせて、はあと同時に肩をすくめた。
それから、よく聞こえるように、わざとらしく、咳払いした。
「うおっほん!」
「ねぇ、あなた方、どなたか達のこと、お忘れじゃない? なに二人で怪しい雰囲気出してるのよ」
「あ……え、はあ、うわわ!」
言われて急に恥ずかしくなったらしい、ルカくんがバッと勢いよくスパーダくんから距離をとった。
そりゃあ、恐らく恋い焦がれているのだろう女の子にハグ込みの結構しっとりと濃厚そうな男の友情を見せ付けるなんて気まずいというか、気恥ずかしいだろう。
離れてしまったことに、どことなく寂しそうに腕を上げたままでいるスパーダくんに、イリアちゃんは強気に話しかける。
「じゃあ、あんた、あの剣だった人? あれ? 人って言い方はヘンよね……まあいいか。あたし、前世はイナンナなの」
「へえ、お前がイナンナ? ホントかよ。おしとやかさの欠片もねぇなぁ」
「あ〜ら、ありがと。あんたも全然剣っぽくなくって普通の人間みたいね」
すごい嫌みの応酬だ。
思わずぷっと噴き出してしまってから、わたしは三人を見回す。
「じゃあつまり、ここにはアスラとデュランダルとイナンナが揃ってるってこと? こりゃまた豪華な……」
「そういや聞いてなかったな。ミオ、お前は……」
「ムダ話はそこまでだ」
わたしの話になろうとしたところで、オズバルトの声がして振り返る。
にたにたと笑う彼は優雅に顎をなぞっており、なんだか苛立ちが募った。
それはみんなも同じなのだろう。さっきまでわりと和んでいた空気がピリッとするのがわかった。
「なかなかの腕前だな。これなら十分に期待できる。ただの献体になぞ回すのは惜しい。それに、一度しか使われなかったが、あの治癒の力もなかなか……」
「そんなことで誉められたって、嬉しかぁないね」
「んで? あたし達合格なわけ?」
「ああ、満点をやろう。褒美として地獄の激戦区、西の戦場へご招待……だ」
地獄。
激戦区。
戦場。
あまりにも聞きたくない言葉すぎて、うわあ、と頭を抱える。
献体とか言うのも嫌だけど、こっちの方がもっと嫌だ。無理だ。見ての通り、わたしはずっとうずくまったままである。
「ちょ、ちょっと待って、わたし、た、戦えない、です」
「ふむ。確かにまったく動いていないな。だがその治癒術には目を見張るものがある。拠点での後方支援を……いや、戦場を駆け回る医療班がいた方がいいだろう。お前はこいつらと共に行動し、ひたすらに回復させろ」
「い、いや、駆け回る必要なんてなくないですか!? 後方支援で拠点にいるならまだしも!?」
「黙れ、異能者めが! 貴様に決定権があると思っているのか!」
基本的人権の尊重……と思うけれど、この世界にはないのかもしれない。嫌だな。日本、文句はいろいろあるけど、いい国だったんだな。
というかあまり怒鳴らないでほしい。びっくりして何も言えなくなってしまうので。
「あそこは戦況の見通しが悪くてな。地の利を生かしたガラム兵のゲリラ戦法に手を焼いておる。貴様らほどの戦闘能力なら、かなりの戦果を挙げられるだろう。ハッハッハッ簡単にくたばってくれるなよ!」
笑いながら部屋を出て行くオズバルトに、わたしは震える体をどうやって落ち着けようかと顔を伏せる。
その横で、ルカくんは涙を隠すことなく頭を抱えていた。
「イヤだよ、戦場なんてイヤだよォ!」
本当に。すごく嫌だ。