7-1

「ほ、本当にもう無理だって〜!」

わあっと戦場の忠心で泣き出したのはルカくんじゃない。わたしである。
連戦に次ぐ連戦。もうわたしは限界であった。

「わたし平和ボケした国の超平和な一般市民だよ!? こんなとこいられるわけないじゃん!」
「だからってうずくまってたら、余計ケガするでしょ!」
「そ、そうかもしれないけど……!」

戦場を進む度、転生者に出会う度に「敵討ち」だと武器を向けられる。
怖い。本当に怖い。武器を向けられるのも、いきなり襲い掛かられるのも、めちゃくちゃに怖い。何度か悲鳴をあげた。その悲鳴に他の人までやってくるのだから戦いは終わらない。本当に無理。
それはほとんど、いや全てがアスラに対し恨みを抱いた転生者で、集中的に狙われているのはルカだけれど。慣れない戦闘を行ったり、失敗しないようにと治癒術を使ったりで、もうだいぶ限界だ。

怖い。本当に怖いな。
前世ってなんだろうな。
ルカはルカだし、わたしはわたしのはずなのにな。
わたし達ほどで無くてもイリアやスパーダもだいぶ疲れてきていたのだろう。汗を拭って、隊列を整えるついでに、もう、と肩をすくめた。

「しょうがねえなあ……ほら、立てよ。安心しなって。お前もルカも、オレがちゃんと守ってやるからさ」
「あたしは?」
「お前は守らなくてもなんとかなりそうじゃん」

目の前でイリアやスパーダが漫才を始めてくれるけれど、わたしもルカもそれどころではない。本当に帰りたい。

ああ。本当にこれは夢じゃないんだよなあ、ウズメの記憶とか力がもっと使えるようになったら楽に……ならないか。ウズメも戦えないって言ってたし。こんな治癒術だって使えなかったはずだし。これ転生特典かな。そんなに嬉しくない。

再び深々とため息を吐くと、ほら、とイリアが手を差し伸べてきた。

「ったく……実際、前に出る必要はないわよ。むしろ前線でキビキビ働くのはこの二人。あたしたちは後ろから安全に行きましょ」
「え、ええ……?」
「おう、任せな!」

大丈夫よ、と笑ってくれるイリアだって、別に何も不安がないわけではないだろうに。
手を差し伸べてくれることに安心して、申し訳なくなって、頑張りたいなって思って。わたしは手を取って立ち上がると、ぐす、と鼻を鳴らした。

「……ごめん。ありがと」

そうしてイリアと手を繋ぎながら再び歩き出すことを応援するように、ちゅん、と鳥の声がして、そちらへと目を向ける。
さっきまで全然見なかったのに、気付けば数羽の鳥がいた。戦場なのに、こんなところにいていいのかな。ちゅんちゅんと鳴いている彼らに首を傾げつつ、わたしはそうだ、と口を開いた。

「それにしても、なんか、アスラって恨まれすぎじゃない? さっきから……」
「ほんと、どんだけ怨み買ってんのよ! これじゃ何にも聞けないじゃない」
「知らないよ……僕だってアスラはセンサスの英雄だったってことしか……」
「まっそりゃそうだわな。戦争の英雄なんてもん、敵からすりゃただの死神だもんな」
「うう……そっか、僕って前世でラティオにいた人にとっては恨みの対象なのか……」
「でもよルカ、今の太刀筋は悪くなかったぜ。少しは板についてきたじゃねえか」
「う……うん、でも、なんだか複雑な気分だよ……」

そう励ましながら更に奥へと進んで行く。
鳥はまだ鳴いている。
うるさいわね、あの鳥、とイリアも呟いたところで、背後に気配を感じて足を止めた。