7-3

ぶんぶんとデタラメに大剣を振り回しながら、ルカは喚き声を上げ続ける。
その声は痛々しくて、危ないとか言う前に心配でたまらなくなるほどのものだった。

「おい! 止めろルカ!もう死んでる! どうしたんだよお前!」
「どうして! どうして! 味方のはずじゃないか! ただでさえ! ただでさえ戦場なのに! 味方なのに! みんなしてアスラ、アスラって! うわああ! うわあああ!」
「いい加減にしなさいよ! ルカ! そんなことじゃ、あんたも前世の記憶に捕らわれるわよ! しっかり自分を持って! あんたはルカ・ミルダでしょ!」

振り回しているせいで近付けないながら、イリアはピシャリと叩くようにルカにそう言い放つ。
わたしはただおろおろと眺めるだけだったが、ルカはちゃんとイリアの声が聞こえていたらしい。
やがてドサリと大剣を地に落とすと、呆然とした様子でイリアを見た。

「イリア……そう……僕はルカ……ルカ・ミルダ……」
「いいえ。そんなことない。素晴らしいわ、ルカくん」

凛とした可愛い声が聞こえてきて、気だるげな動作でルカがそちらへと視線を向ける。
もちろんわたしたちも自然と目を向ければ、小さく鈴を鳴らして歩いてくるチトセちゃんの姿を捕らえた。

「チトセ……さん」
「ルカくん。あなたは私の見込んだ通り……強い人ね。転生者なんてものともしない」
「あ……ありがとう。でも……」
「おい。ここは戦場だぜ? ケガ人もいねえのに衛生兵がウロチョロするところじゃねぇだろ?」
「そ、そうだよ。こんな所に来たら危ないじゃん」
「そうね。でも引き寄せられちゃうの。強い殿方に寄り添いたい……私の本能の部分がね」
「はぁ? あんた……なに言ってるの?」
「ルカくんおめでとう。あなたの活躍でガラム兵が撤退したそうよ」

一応心配のつもりで声をかけたのだけれど、わたし達など眼中に無い、といった動作で彼女はルカの手を取る。
ううむ、ここまで行くといっそ清々しいくらいだ。
わたしの中のサクヤのイメージとなんか違うけど、まあ生まれ変わりってだけで別人だから、おかしくはないか。
わたしはそう納得したけれど、イリアはそうではなかったらしい。

「ちょっとあんた! 何しようとしてんのよ!」
「え、イリア?」

突然怒鳴ったイリアに肩を震わせるが、彼女もそれは自然と出てしまったことで、意図したことではなかったらしい。
慌ててそう続けるので、わたしとスパーダはチラと目を合わせてからそれに頷いた。

「あああ……あのね! えっととにかく……ここから動かないと! ほらアレよ! 忙しくなるでしょ? 色々と!」
「そうだな。オレ達もいったん戻って体を休めておこうぜ」
「同感。疲れたってレベルじゃない」
「そーだそーだ。食うことを怠ってはいかんのだ、しかし」
「ああ……そうですわね。では、王都軍の陣で皆様をおもてなしさせていただきます」

そのまま先に歩き出したチトセちゃんに続いて歩き出す。
ルカとイリアは後ろで何かを話していたが、割ってはいるのはヤボってやつだ。
代わりに、ものすごくわたしたちのことを見てくれないチトセちゃんに声をかける。

「ねぇ、チトセちゃ……」
「チトセでいいわ。わかってるんでしょ?」

私の前世、とささやく彼女は、やっぱりすごく、サクヤにそっくりだ。
彼女より、ずいぶんと素っ気無い気もするけれど……何故だろう。絶対にそうだって確信がなぜかあって、そうだよねって納得してしまう自分がいて。
わたしは、そっかあ、肩をすくめるしかできなかった。

「あー、やっぱりかぁ」
「現世ではもう、陰から見てるだけなんてしないわ」

それってどういうこと、と問おうとした時だった。
突然、地面を揺らすような轟音と振動が足下から伝わってきて、思わず目の前にいたチトセの手を掴む。
それから、いったいなんだと空を見れば、黒い黒い煙が上がっているのが見えた。

「火事だ! オレ達の陣から火が上がってる!」
「と、とにかく行ってみよう!」