8-1

「ガラム兵の奇襲だー!! 総員警戒せよ!」

野営地に残る人たちに伝えるために、そう叫びながら走り回っていた兵士が、その数秒後に悲鳴を上げて倒れたのを見る。
音はしなかった。でも、明らかにどこからか飛んできた銃弾に撃たれたのだろう。戦場を駆け回って、少しは慣れたというか、マヒしていたわたしだけれど、じんわりと広がっていく血溜まりを見て、わたしはへなへなと座り込んでしまった。

「あわ、あわわわ、」
「うわわわっ」
「みんな伏せろ!」

スパーダがわたし達を守るように前に出てそう叫ぶ。
みんなが咄嗟に地に伏せる中動けないでいれば、イリアがぐいとわたしの頭を押し付けるようにして伏せさせた。
発砲音はしないのに、すぐ隣の地面やテントに銃弾が飛んでくる。
スパーダは自分に向かってきたそれを刀でキンと弾きながら、鋭く辺りを見回した。

「貴様、実弾を刀で弾くとはなかなかの技量だな! 褒めてやる!」
「ガ、ガラム兵は、撤退したんじゃ、なかったんですか!?」
「いや、小賢しいガラム兵どもめ! 撤退に見せかけ伏兵を置いたらしい。まんまと本陣への奇襲を許してしまった! まったく我が軍の歩哨どもはなにをしとるか! 全員、重営倉入りにしてくれるわ!」
「消火作業、概ね終了! これより奇襲兵の討伐に……」
「バカ者! 伏せんか!」

あわあわと戦慄く口で必死に問いかけて、辺りを走る兵士を見る。
だが、立ったままの兵士達は次々とどこからか飛んでくる弾に撃たれ、仰け反るように地に倒れていくばかりだ。
何もできない。回復をしたい、と思うけれど、よほど凄腕の狙撃手なのだろう。みんな、倒れた後は少しも動かなくなってしまっていて、なんとか遠距離からかけようとした治癒術も弾かれる感触がして、涙が滲んだ。

こわい。どうして。結局何もできない。嫌だ。死なないで。死にたくない。
震えるばかりのわたしたちを庇うために弾を弾いていたスパーダは、ついに狙撃手の位置を特定したらしい。力強く地を駆け出すと、銃弾の中を真っ直ぐに突っ切って、茂みを切り払った。

「見えた! そこだな!」

その斬撃を避けるように、茂みの中からそこから転げるように黒い物が飛び出してくる。黒い物……黒いコートに長い黒髪の、黒尽くめの男だ。どこの人なのだろう。特に兵装はしていない。
ようやく姿を見せた狙撃手に、イリアも立ち上がると油断なく武器を突き付ける。

「へっ敵の本陣で単独行動たぁいい度胸じゃねェか!」
「好き勝手はさせないわよ!」

ルカも不格好ながら駆け出して戦闘体制に入ると、黒尽くめの狙撃手は冷静な表情のまま、自分の銃を構えた。

「仕事の邪魔だ、消えろ!」