8-2

銃とは遠距離攻撃をするためにあるものだと、わたしは思う。
もちろん、近距離からでも当てられるだろう。でも、先ほど茂みに隠れながら攻撃してきたように、その真価は遠距離からのものだ。だから彼と離れてしまえば、それだけ向こうに有利な状況になってしまう。
ルカとスパーダは一気に距離を詰めると、狙撃手に距離を取られ過ぎないようにと攻撃を繰り出した。

「はああっ!」
「ふん……マーシレスハント!」

しかし相手は相当場慣れしてるらしい。至近距離だというのに弾を連射させてくる。
当然、それを避けようとしたスパーダは大きくバランスを崩すことになって、刃を振り下ろそうと大したダメージを与えられない。

「えいったあっ! 瞬迅衝!」
「ツインバレット!」
「瞬迅槍!」
「うあっ!?」

銃をあたかも槍のように構えて、勢いよく二人を突き飛ばしては遠くで構えていたイリアへと攻撃してくる。
彼女はかろうじて避けたが、当然距離が出来てしまった。
ヤバいヤバいと焦りながらも、とにかく自分に出来ることをと天術の詠唱に入る。

「痛いの痛いの飛んでけー! ファーストエイド!」
「くそっこいつ、強ぇえ! たぶん、オレ達よりも……ずっと!」

なかなか倒れない狙撃手は、だがこちらを全滅させることもしないまま距離をとる。
構えたままの銃口が黒く光り、それだけで十分に恐怖が背筋を走った。ぎゅっと自分達の武器を握る手に力が入るが、どうすれば勝てるかなんてわからない。

どうしよう、と冷や汗を垂らしていると、ふと、狙撃手はチラりとルカを見る。
それから、何かを思い出すように目を細めた。

「そこの大剣の少年。その太刀筋……覚えがあるな」
「僕の太刀筋を覚えてる……? あなた、まさか!」
「こいつヒュプノスか! 死神ヒュプノス。ルカ、覚えてるか?」
「うん……っていうか、でも、あの、その……っ」

ヒュプノス……ヒュプノスって誰だっけ。聞いたことある気がするけど覚えてない。あまりウズメと関りがなかった人かな。
でもルカとスパーダの様子からして、この狙撃手も転生者らしい。たぶん、歯切れの悪いルカの様子からしてラティオ関係だろう。
姿かたちは全然違うだろうによくわかるな、と感心していると、狙撃手もなるほどな、と小さくうなずいた。

「……お前、アスラだな」
「…………っ!! あの……僕は確かに前世であなたと戦って、あなたを倒したけど……でも、その……!」
「勘違いするな。お前などに興味はない。俺は、ただ俺の仕事をこなすだけだ。戦場からガキや女を追い払うのは俺の契約に入ってはいない。だから邪魔立てするな」

ほ、と安堵した息を漏らしたのがよくわかる。前世の記憶に強く囚われていない。これなら、現在の立場上敵対は免れなくても、対話はできるだろう。
ルカもそのことにいくらか落ち着いたようで、もう一度剣を握り直すとしっかりと相手を見た。

「仕事って、僕らを殺すこと?」
「違う……この野営地奇襲の目的は食糧の焼き討ち、そして正規軍指揮官の暗殺。ガキ相手に無駄口を叩くことは俺の仕事ではない。死にたくないならどこへでも消えろ」

「ねぇ待って待って! じゃあさ、前世の恨みで銃を向けてんじゃないのよね? だったらあたし達の話、聞いてくんない?」
「断る。言ったはずだ。俺は俺の仕事をすると。ガキとのお喋りは仕事に入っていない。俺は仕事熱心だが残業は嫌いな質でな」
「いーじゃん! ちょっとくらい聞いたって! あたし達さ、前世の記憶を持った人に会って話を聞いて回りたいのよ。良かったらさぁ、一緒に付いて来て……って、そんな気欠片もなさそうねぇ。参ったなコリャ」

イリアも声をかけたけれど、現在の彼は、しっかりと地に足を着けて生きているようで、自分の仕事をないがしろにする気はなさそうだ。
仕事ができる大人っていいよね、の気持ちと、これもう一周回ってわたしたちのこと見逃してくれないかな、と気持ちとが混じりながら、相手の様子をうかがっていた時である。

「な〜どという緊迫した雰囲気などまったく気にせずに登場するこのオレさま! ヒーハー!」

どこからともなく、そんな、どこか調子外れのねっとりとした声が聞こえてきた。